過硝酸溶液を用いた安全・確実な世界初の殺菌手法
①【大阪大学】
工学研究科 / アトミックデザイン研究センター
北野 勝久准教授
http://www.ppl.eng.osaka-u.ac.jp/pna/
特許 登録特許に基づいた技術
技術概要
高い殺菌力と安全性を兼ね備えた、従来の殺菌剤とは一線を画すオリジナル技術
「過硝酸(HOONO2)」の存在は古くから知られているが、これまで殺菌用途で用いられたことは無く、当グループが世界で初めて殺菌剤としての可能性を見出した。
数100倍の希釈液でも芽胞菌を数秒で無菌化することができるという、従来の殺菌剤と比べても圧倒的に高い殺菌力を有しており、用途に応じ希釈し適切な濃度で利用することができる。
気になる安全性は、動物実験によって確認済み。
また、一般的には生体消毒薬による芽胞菌の殺滅は不可能とされているが、生体安全性が確認された濃度以下の過硝酸で、皮膚モデル上の芽胞菌を無菌化できている。ウイルスの不活化も確認されており、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への効果も確実である。
安全性が担保された消毒薬では殺菌が不可能なため、機械的に切削する事で治療が行われているう蝕(むし歯)治療においても、無菌化に成功しており、従来の消毒薬の概念を覆す殺菌剤として期待され、感染症の予防や治療のみならず、医療機器、食品、農業など様々な分野へ応用の可能性がある。
過硝酸を殺菌に利用する原理特許は日本、米国で特許登録済みで、ヨーロッパでも特許許可通知が出て登録手続き中であり、企業は安心して実用化研究を進める事ができる。
既存技術・競合技術との比較
・一般的な殺菌剤は室温下で長期保存できるが、過硝酸は室温では熱失活するために保存ができない。体温下では半減時間が数秒程度と極端に小さくなるが、この不安定性が生体深部への浸透を阻んで生体安全性をもたらしていると考えている。
・過硝酸の化学合成は、数種類の薬液を混合するのみと簡便。
・冷凍することで長期間の保管も可能であることから、合成装置を必ずしも利用現場に設置する必要もない。
・生体消毒剤は安全面での条件から、既存技術では必ずしも必要な殺菌レベルを実現出来ているとは限らなかったが、本技術の利用により様々な感染症の治療ならび予防に活用できる。
・種子の殺菌の実験も進めており、発芽率に影響を与えることなく無菌化に成功するなど、従来の殺菌手法に比べて優れた結果が得られている。
・生物への応用以外にも、新しい殺菌剤として医療機器や食品など多方面での利用が期待できる。
・特別な原材料を必要としない過硝酸による殺菌コストは、殺菌力が圧倒的に高いために、殺菌力当たりに換算すると非常に低くなり、従来の殺菌方法と比べても大きな問題はない。
新技術の特徴
・高い殺菌力
・高い安全性
・低いコスト
活用が想定される業種
医療分野、食品加工分野、生鮮食品分野
・医療分野における生体消毒や機器滅菌など
・食品加工分野における製造装置や容器の殺菌など
・生鮮食品分野におけるカット野菜や食肉等の殺菌など
想定されるビジネス用途
・医療、食品分野等への殺菌装置の製造販売
・再生医療分野でのアイソレーターなど機器組み込み殺菌装置への利用
・医療施設への殺菌消毒サービスの提供
現在のニーズ
・個別の応用に向けた、具体的なターゲットに対する殺菌の研究開発ならび実用化を企業とコンソーシアム※を活用し共同研究したい。
・※過硝酸応用研究開発コンソーシアム
複数の企業との共同研究契約を束ねる協働ユニットという大阪大学独自の制度を用いて過硝酸応用研究開発コンソーシアムを構築、いくつかの分野に関しては既に企業が参画している。過硝酸溶液を用いた殺菌技術は全く新規の殺菌剤であるため、応用分野が異なっていても共通で取り組むべき基礎的な課題が多くあり、協働ユニットではそのような共通課題の解決を進めて内部で情報を共有しつつ、個別の応用課題に関しては関係者のみで秘密保持を行いながら共同研究を進めている。
大阪大学では協働ユニットの予算を用いて3~4人程度の研究員を雇用しており、基礎的な課題解決ならび新規技術の開発、そして企業との応用研究を並行しながら進めている。アカデミアでは大阪産業技術研究所、鶴見大学歯学部、九州大学歯学部、愛媛大学、神戸大学などから、物理化学、分析化学、生化学、分子生物学、農学、歯学、医学など幅広い分野から多くの研究者が参画しており、様々な学術分野からのサポートが得られる体制となっている。