労働力の減少、賃金や勤務時間など待遇の改善、技術やノウハウの継承など、ビジネスにおける「人」を取り巻く課題の重要性は、あらゆる業界で高まっている。その中でも警備業界に着目し、先進的な情報技術を用いた警備システム『警備護衛門(けいびごえもん)』を提案したのが、阪南大学の学生で構成されるTEAM UNNATURALだ。ミライノピッチ2024の学生部門でOIH賞を受賞したメンバー4人に話を聞いた。
人とICTとを融合。現場の声を取り入れた警備技術
飯銅
『警備護衛門』は、VPS(Visual Positioning System)測位技術を核にして、AR、AI、画像処理といった技術を活用することで巡回警備の高度化・効率化を図るプランです。
VPS測位技術では、建物内の様子を事前にカメラで撮影してデータ化しておきます。そのうえでスマートフォンやARグラスなどのカメラ機能を用い、同じ場所を撮影します。すると撮影した画像と事前に用意されたデータが自動的に比較され、撮影者が今どこにいるか、どこを見ているか、などが計算されます。位置や方向を特定する技術という点ではGPSとよく似ているのですが、電波が届かずGPSが利用しづらい屋内や地下であっても、正確に位置を算出できるのがその大きな違いです。
警備護衛門では、扉の閉め忘れやカギのかけ忘れなど、警備員がチェックすべき箇所を事前に設定し、ARグラス上などに表示します。これにより、グラスを装着した警備員は巡回警備中に、抜け漏れなくチェック箇所を確認することができます。

「扉が閉まっている状態」など正常時の様子を登録しておけば、巡回時にカメラが捉えた画像と自動的に比較され、異常の検出を行うこともできます。これらの機能は人為的ミスを防いで警備の精度を高めるとともに、経験や能力差によってばらつきがちな警備の質を均一化することにも貢献します。他にも、報告書の自動作成機能や、異常を検知した場所へ向かうための最短ルート表示機能なども備えており、誰もが少ない負担で、質の高い警備を行うことができます。

他業界と同じように警備業界も人手不足に悩まされており、その解決策としてロボットの導入が行われています。しかしロボットは、導入コストが大きいという課題があります。また、ドアを開けたり引き戸を引いたりなど、人の手を介さないと移動できない場所には向かないという問題もあります。さらに私たちが現場の警備員にヒアリングしたところ、雰囲気やにおいといった人間ならではの感覚も警備を行ううえでは重要だと知りました。
そこで警備護衛門は、人が現場に赴いて警備を行うことを前提としたうえで、AIなどの技術が人をアシストするという仕組みを採用しました。この点が既存の警備ロボットとの大きな違いです。
ゼミで受け継がれる、ビジネスコンテストへの挑戦の伝統
飯銅
ここまで私が説明を担当しましたが、実は私がチームリーダーというわけではありません。OIHのミライノピッチでプレゼンを担当したので、その流れで今回も説明役を担当しました。私たちのチームは特にリーダーを決めておらず、ピッチ参加時のプレゼン役もあみだくじで決めています。ミライノピッチでくじに当たったのがたまたま私だったのです。
全員が人前に立ち、プランの説明を行えるというのが私たちのチームの特長です。技術面では、私はARと画像処理を担当しています。

ミライノピッチ2024でプレゼン役を務めた飯銅さん
大庭
私は各種技術を組み合わせて、全体としてのシステムを構築する役割を担当しています。私と飯銅は同級生で2人とも北川 悦司先生のゼミに所属しています。
北川先生は自身が学生時代にベンチャー企業を立ち上げたこともあり、ゼミ生への起業支援に積極的です。ビジネスプランコンテストへの参加は、ゼミ活動での大きな柱になっています。
平山
私も北川ゼミ出身で、大学院に進学した今も北川先生の研究室に在籍しています。技術面ではVPSを担当しています。
私は学部生時代にビジネスプランコンテストで受賞したことはありませんでした。「院生になった今こそチャレンジしたい」という思いから、チームに参加しました。
藤田
メンバーの中で私だけが別のゼミです。私は大学院で主にセキュリティ技術について研究しています。学部生時代にビジネスプランコンテストに参加したのですが、そのときは思うような結果を残すことができませんでした。悔しい気持ちが残り、「もう一度挑戦したい」と思っていたことから、チームに加わりました。
チーム内ではメンバーの役割分担の調整や、コンテスト参加などに向けた書類作成などを担当しています。

TEAM UNNATURALのメンバー。左から大学院企業情報研究科修士1年藤田さん、経営情報学部経営情報学科4年飯銅さん、同じく経営情報学部経営情報学科4年大庭さん、大学院企業情報研究科修士1年平山さん。お互いフォローし助け合う、仲のいいチーム。
チームとしてさまざまなコンテストに参加して――
飯銅
プランを考え始めた当初は、現場を巡回する警備員の負担軽減に重きを置いていました。しかし、ブラッシュアップしていく過程で、システムを導入・運用する企業側の視点でも考えるようになりました。客観的・多角的に物事を見られるようになったことが、ピッチへの参加を通して大きく成長した点です。
平山
チーム内でのコミュニケーションやピッチでの発表など、伝える力を養えたことが私にとって大きな成果です。阪南大学の警備隊長を務めた方からお話をうかがう機会もいただけました。普通に学生生活を送っているだけでは出会えない人と出会え、話せたことも大きな財産です。
大庭
チームに加わったことで、人前で話す経験を豊富に積むことができました。経営者の視点を学ぶことができたのは、ピッチコンテストに参加したからこそです。
藤田
伝える力という点では、話すだけでなく、文章で伝える力も養うことができました。これから先、どんな道に進むにしても役立つ力を身につけられたと思います。
社会人経験を経て、いつかは起業を
飯銅
警備護衛門は現時点ではプランであって、プロダクトとしては存在していません。ミライノピッチに参加して起業している方たちの姿を見るなかで、プロダクトがあることの強みを痛感しました。私はこの後も、大学院に進学して研究を続けていきます。起業への興味も大きくなりました。いつか、警備護衛門を現実のものにしたいです。
大庭
私も大学院へ進学し、より高度な技術を身につけていきます。ミライノピッチなどを通して得た経営者の視点や起業家のノウハウを、大学院での研究にも活かしたいと考えています。
平山
各種のビジネスプランコンテストに参加したことで、すでに起業している同世代の人たちと交流することができ、たくさんの刺激を受けました。修士課程を修了後は企業へ就職する予定ですが、起業という道も意識にとどめながら、まずは社会人経験を積んでいこうと思います。
藤田
私も修士課程を修了後は企業へ就職する予定です。この1年の経験のおかげで「起業もありだよね」という気持ちになりました。視野が広がり、より多くの可能性に出会うことができた素晴らしい1年でした。
OIHをこんなふうに活用しました!
ミライノピッチ2024に参加したことで得られた、ベンチャーキャピタルからのメンタリングがとても役立ちました。警備員を雇用する企業側の視点でプランを見つめ直すことや、警備ロボットを用いた既存サービスとの差別化を図るプランの組み立て方などをアドバイスしていただきました。理系の学生である私たちは、シーズとなる“技術ありき”になったり、収益化やそのための料金設定などビジネス面には苦手意識を持ったりしがちです。OIHには、それらの点を補完してもらうことができました。

取材日:2025年1月16日
(取材・文 松本守永)