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起業家ライブラリ

木下 貴博 氏

CO2排出量ゼロの工業用素材!世界初の技術を大阪から

もみ殻などの農業廃棄物(農業残渣)から炭素素材をつくる

木下 貴博 氏

株式会社ジカンテクノ
代表取締役社長
ウェブサイトhttps://jikantechno.com
事業内容バイオマスを原材料にした高機能カーボンの製造

株式会社ジカンテクノ(以下、ジカンテクノ)は、もみ殻をはじめとする農業残渣(ざんさ)から高機能カーボンといわれる炭素素材を作る会社だ。その汎用性は高く、リチウムイオン電池、化粧品、タイヤなど、私たちの生活に欠かせないものの材料となる。アイデアから実用化に至るまで、試行錯誤の連続だったという代表の木下貴博氏の、現在・過去・未来のお話を伺った。

地球に優しいものづくりが日本の農業をも救う

米を主食とする日本において、一年間に出るもみ殻の量は約200万トンと言われています。これまで家畜の飼料や肥料などとしては活用されてきたものの、それ以上の活用方法はほとんどなく、廃棄処分する費用は農家や農業法人を圧迫してきました。

私たちの技術では、その農業残渣を高品質で適正価格の炭素素材につくり変えることができます。もみ殻の他にも、日本酒醸造の際に出る酒粕、ビール醸造からの麦芽粕、チョコレート加工からのカカオ種皮なども原料として活用できます。この技術は、今のところ世界初で、これだけ高品質の素材をつくりだせる企業は世界のどこを探してもありません。

株式会社ジカンテクノ

炭素素材とは、化粧品、半導体などの材料となるシリカ(二酸化ケイ素)、リチウムイオンバッテリーの電極などに使われるカーボンやグラフェンなどのことです。これらは、従来は石英や黒鉛などの鉱物からつくられてきました。

しかし現在、世界的に電気自動車(EV)が普及し、そのバッテリーの電極となる鉱物原料は、製造過程では多くのCO2を排出するうえ、原材料も不足しつつあります。その上、主な産出国である中国による輸出規制もあり、価格など先行きが不透明です。

株式会社ジカンテクノ

一方で、農業残渣からつくる炭素素材「ライスシリカ™」は、カーボンニュートラル。元々その植物が光合成をしながら吸収していたCO2が排出されるだけなので、燃やしても排出量は差し引きゼロとなるのです。さらに第1次産業の廃棄物である農業残渣が第2次産業の高品質な原材料として高い付加価値を持つものに転じ、農家や農業法人の収益にもつながるのです。

このように私たちの技術は、単に環境負荷が低いというだけでなく、食糧問題やエネルギー問題など、今、地球が抱える様々な問題の解決にアプローチできるのです。

製造工程で出る熱を利用してCO2排出量をゼロからマイナスに

ジカンテクノの創業は2016年。元々は別の創業者が、自身の開発したバッテリーの特許実用化をめざしてつくられた会社でした。その電極の材料としてカーボンを使うことを検討していたところ、農業廃棄物の処理費用が農家を圧迫しているという話を聞き、もみ殻を原料に植物由来のカーボンがつくれないだろうかと考えたのが、この事業の始まりです。

2018年頃から大学の先生などにご協力いただきながら開発をはじめ、そこに私も参加しました。製造機械を何度も壊しながらの挑戦。ようやく実用化への光が見えてきたものの、当時、興味を示してくれる人はあまりいませんでした。

転機は2021年にイギリスで開かれた『国連気候変動枠組条約第26 回締約国会議(通称COP26)』です。この国際会議で日本は、2030年代のうちにCO2排出量を2013年比で46%減らすことを宣言。2050年には実質排出量をゼロにするという目標にも合意しました。

そんな中で、国は企業に対する炭素税の本格導入など、カーボンプライシング施策を具体的に検討し始め、企業側もその対策を迫られることとなりました。問い合わせが増え始めたのはそのころからです。現在では、海外に拠点を置くグローバル企業からも注目され、引き合いも多くいただいています。

株式会社ジカンテクノ

最近では農業の現場近くに製造工場を置くことによって、工場から出る熱や排気を利用しながら、環境負荷を抑え、さらに野菜の生育も助けるという技術の導入を進めているところです。一般的に野菜を育てるビニールハウスは、重油を使って室内を温めますが、重油を燃やすとCO2が出るだけでなく、最近では高騰する燃料費が農家や農業法人を圧迫しているという現状があります。

私たちの開発したシステムでは、重油の代わりに、もみ殻からライスシリカ™をつくる過程で発生する自燃による排熱を利用してハウス内を温め、その排気をビニールハウス内に送ってハウス内のCO2濃度を上昇させ、それによって野菜の成長を促進させるというものです。

排気に含まれるCO2は、稲が成長する際に光合成によって吸収してきたCO2と、差し引きゼロ。さらにそれを野菜に吸収させることによって、結果としてCO2排出量がマイナスに。CO2を与えた野菜は生育がよくなり、収穫量もアップ。加えてハウス内を温める燃料費も抑えることができる上、製造されたシリカを販売して現金収入も得ることができるという、農家にとっても嬉しい技術です。

株式会社ジカンテクノ
もみ殻からライスシリカ™を製造する際に発生する自燃の熱でビニールハウスを温め、排出されたCO2をトマトに与えることでさらに収穫量を増やすことに成功した(画像はとまとランドいわきのHPより)

LVMH イノベーション・アワードのファイナリストとしてヨーロッパ最大の技術展示会に出展

2024年はジカンテクノにとっての大きなチャレンジの年となります。フランスのLVMH イノベーション・アワードのファイナリストとして選ばれ、5月にパリで開かれるヨーロッパ最大の技術展示会「VIVA TECHNOLOGY 2024」のLVMHブースに出展することになったのです。

株式会社ジカンテクノ

このアワードには世界89カ国から1,500を超える個人・団体からの応募があり、今年度初めて日本から2社が選ばれました。LVMHとはルイ・ヴィトン、モエ・ヘネシーを初めとする世界の名だたるラグジュアリーブランドで構成されている複合企業体。弊社の製品が、環境負荷の少ない、体にも優しい化粧品の原料として、複数の高級化粧品ブランドから注目されていることが、受賞の決め手となりました。

興味を持ってくださる企業は、カーボンプライシングに対して危機感を持っている大きな企業がほとんどです。特にEU諸国に拠点を置く企業は強い興味を示してくださるので、これは大きなビジネスチャンスだと捉えています。さらに展示会の後は、フランスの代表的なスタートアップ施設STATION Fにおいて、新たなプログラムも始まります。そこからもまたビジネスが広がることはまちがいありません。このチャンスをどう実績へと結びつけていくのか。ぜひご注目いただきたいと思っています。

OIHをこんなふうに活用しました!

2023年にOIHアクセラレーションプログラム「OSAP」の第16期採択企業として参加しました。翌年の2024年夏には「第二回HeCNOS AWARD(ヘクノス・アワード)」のカーボンニュートラル部門で受賞し、大阪・関西万博への出展をめざして事業を進めています。

どのプログラムでも言えることですが、結果は参加してすぐに見えてくるものではありません。しかし長い目で見ると、そこで得たことは必ず自分の血肉となっていつか何かの役に立つはず。焦らず、マクロの視点を持って挑んでほしいと思います。

株式会社ジカンテクノ

取材日時:2024年6月24日
(取材・文 岩村 彩)

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