私たちの腸内には、およそ1000種類・40兆個の細菌が棲んでいる。この腸内に棲む細菌の集団が「腸内フローラ」と呼ばれ、私たちの健康のカギを握っていることが明らかになっている。そのため、一人ひとりの腸内フローラにあった食生活を送ることで、病気になりにくい身体をつくることができるという。
株式会社bacterico(以下、bacterico)は、人それぞれに合わせた腸内フローラケアを通して、人々の健康と幸せをつくることをミッションに活動している。「腸内フローラには大きな可能性を感じる」と語る代表・菅沼名津季氏にお話を伺った。
「無事に赤ちゃんを産みたい」「ダイエットしたい」「便秘を解消したい」などの願いを“腸”から考える
私たちの提供する腸内フローラケアは、言わばオーダーメイドの腸活サポートです。簡易的な検査キットを使って、その人の腸内にどんな細菌が住んでいるか検査を行います。そして、それらのデータをもとにして、管理栄養士が一人ひとりに合わせた個別の栄養指導を行います。
なかでも『ママフローラ』は、妊娠期の女性の腸内細菌データにもとづいて、管理栄養士が妊娠中から出産までの食生活をきめ細かくアドバイスするというものです。妊娠中の腸内フローラはとても大切です。妊婦さんの腸内フローラを整えることで、早産や妊娠糖尿病、また赤ちゃんの将来の肥満のリスクなどを減らすという研究もあります。
「赤ちゃんが無事に生まれてきてほしい」というご家族の願いを、腸の健康から支えるというこのサービスは、多くの方からご好評をいただいています。
その他にも、健康に気を遣われる方、ビジネスやスポーツなどで、パフォーマンスを大切にされる方に向けて、腸内検査と個別の栄養指導を行っています。太りにくい体質に改善したい、免疫力をアップさせたいなど、その人の“なりたい姿”に腸からアプローチしていきます。
さらに企業向けのサービスとして、研究員と共同研究をしながら、健康維持や病気予防に関する新規事業や新商品の開発を行ったり、福利厚生のプログラムの一環として、社員向けに腸内検査と栄養指導を行ったりもしています。
それは本当に自分にとって“身体にいい食品”なのか?自らの腸内環境を知ることの大切さ
腸内は例えるなら、40兆人の“社員”が働いている大きな会社。私たち一人ひとりが持つ“会社”は、みんな違います。優秀な人材がいる会社は業績が伸びる、つまり健康状態がよくなりますし、逆のこともあり得ます。
例えば、そこにA菌という“新入社員”を取り入れたとしましょう。いくら優秀な人材でも、その会社と相性のいい場合もあれば、そうでないこともありますよね。“腸”も同じです。いくら優秀な善玉菌や食品を取り入れたとしても、それが合う人と合わない人がいるということです。
一般的に「身体にいい」と言われている食品でも、それが有効かどうかは、その人の腸内細菌の種類や割合によって異なります。だからこそ検査によって、自分の腸内フローラを知ることが大切なのです。きちんと知って、ケアしてあげることで、免疫力が向上したり、肥満や生活習慣病のリスクの予測ができたりします。他にも、がんや糖尿病、認知症の予防につながるという研究もあります。
近年、日本の平均寿命は一貫して伸び続けています。ただし、日常生活に制限のある「不健康な期間」は女性で12年を超えていることから、健康寿命が伸びているわけではないのです。『伸びた寿命を健康に過ごす』ということは生活の質を保つことにもつながります。そのカギを腸内フローラが握っていると言っても過言ではありません。
いまは、国内だけでなく、海外に向けた展開も少しずつ始めています。世界には公的な医療保険制度が整っていない国が多くあり、そのような国々では人々の病気予防意識が高く、実際に私たちのサービスに注目をいただいています。
誰もが努力次第で健康を維持できる
高校生の頃、私は医師をめざしていました。ある時、職業体験で実際に病院に行く機会があり、患者さんが若くして病気で亡くなるという場面に遭遇しました。その時に、病気を治すことは、もちろん大事だけれど、病気を予防することも大切だと感じ、予防医学の研究者をめざすことにしました。
大学院卒業後は、「食から人を健康に」という想いを持ち、大阪の大手食品メーカーに就職しました。その時に配属されたのが、腸内細菌の研究チームでした。そこでは、病気を予防するために腸内フローラを改善することがいかに大切なのか、そして食生活の改善によって誰もが腸内フローラを整えられることを知りました。自分の努力次第で健康になれるというところに、大きな可能性を感じました。
前職で腸内細菌を研究したこともあり、ゆかりのある大阪でbactericoを創業しました。創業後も、研究員や慶應義塾大学薬学部の教員を勤めるなど、1人3役をこなしています。現在、bactericoのメンバーは約15名。私のように研究員としての顔を持っている人、育児中のためにフルタイムで働くことは難しいけれど、オンラインでなら指導できるという管理栄養士さんなどと仕事をしています。
同じ女性として、妊娠・出産がキャリアの妨げとならないような働き方を提供することも、私たちの使命。まるで腸内フローラのように、いろいろな状況にある人が、それぞれのキャリアを活かしながら働くことができるような企業をめざしています。
これからも「腸内細菌の力で人々の身体と心の健康を支えること」を使命に、挑戦を続けたいと思います。
OIHをこんなふうに活用しました!
「ピッチへの参加は年に一度だけ」と決めている中で応募した大阪産業局が主催するアワード『第一回HeCNOS AWARD(ヘクノス・アワード)にエントリーし、見事ヘルスケア部門で受賞。企業サポーター賞(バイオサイトキャピタル賞・TIS賞)として賞金もいただきました。2025年に開催される大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオン「展示・出展ゾーン」への出展をめざし、引き続き事業を進めています。
取材日:2023年11月29日
(取材・文 岩村 彩)