『あらゆる食を自由にしたい』。そんな想いから、こんにゃくを使った食品結着材「NinjaPaste（ニンジャペースト）」の開発に成功した株式会社Sydecas（以下、シデカス）。こんにゃく成分100％だから糖質も脂質もゼロ、植物性素材でグルテンフリー。現代の健康指向・環境指向の時代に、大きな可能性を秘めた素材だと語る代表・寄玉昌宏氏に、じっくりお話を伺った。
素材の味をそのままに食品同士をつなぐ素材
NinjaPasteは、こんにゃくをベースとした食品結着成形材です。結着成形材とは、いわゆる“つなぎ”の役割をする食材。お菓子や肉加工品、魚肉練り製品など、多くの食品に使われています。
しかしそのほとんどは、水飴や砂糖などの糖類、バターなどの油脂類、ゼラチンや卵などの動物性素材、小麦グルテン、または化学合成された食品添加物です。“結着剤をもっとヘルシーなものにできないか”、NinjaPasteの挑戦は、その想いから始まりました。
健康食品として人気のナッツバーを例に挙げてみましょう。現在、市販されているもののほとんどは、キャラメルや水あめ、クッキーのような小麦粉生地の糖質、また脂質を含むチョコレートで固めて形づくられています。
ナッツは本来、食物繊維やミネラルなどの多くの栄養素を含むヘルシーな食品のはずなのに、結着剤によって高カロリーになり、さらに素材の味も分かりにくくなってしまっているのです。
こんにゃく成分100％のNinjaPasteは、糖や脂質などを一切含みません。カロリーがほぼゼロで、しかもグルテンフリー。加熱・冷凍・乾燥のいずれの行程によっても結着させることができ、一度固まると崩れることがありません。さらに無味無臭で、素材の味や香りに影響を与えることもありません。
高血圧、糖尿病、肥満、アレルギーなどに悩む人から、「今日はちょっとカロリーを控えたい」という人まで、安心して食べることができる食材です。
現在NinjaPasteは、自社製品の「THE NUTS BAR」と「ベジジャーキー」に使用しているほか、ホテルのスイーツや缶詰肉などにも採用していただいています。
さまざまな食文化・食習慣を持つ人々にも適応
私たちがめざしているのは『すべての人が制約なく食を楽しめる世界』。食の楽しみとは、味や香りだけでなく、歯ざわりや舌ざわりなども大切な要素です。
『“食べている”という実感はそこから生まれるのではないか』私たちはそう考えて“食感”に着目しました。今、世界的に食の問題に注目が集まり、最先端のテクノロジーを使ったフードテック企業は数多くありますが、“食感”という領域に着目した企業はそれほど多くありません。
NinjaPasteはその名の通りペースト状であるため、水分量を調整することでさまざまな食感を生み出します。例えばナッツのように素材の食感を引き立たせたいものには結着材として、大豆ミートなどの代替肉には中に混ぜ込むことによって、弾力のあるジューシーな口あたりに。創り出せるテクスチャーは無限大です。
また国内だけでなく、海外にも販路を広げるため、各国での展示会に積極的に参加しています。2022年10月にはUAE・ドバイの展示会に、2023年5月には、スペインで開かれたヨーロッパ最大のフードテック展示会に出展し、好評をいただきました。また7月に行った北米では、特に「THE NUTS BAR」への関心が高く、実際に注文もいただきました。
世界的に健康志向や自然食品への関心が高まる中で、ビーガンやベジタリアン、フレキシタリアンなど多様な食文化・食習慣にも適応するNinjaPasteは、世界のいろいろな食材との相性もよく、さらなる可能性を感じています。
誰もが気軽に買える製品としての流通をめざす
私たちの母体であるシデカスは、介護用の服飾雑貨の企画・販売からスタートしました。その現場で「食」を楽しむことができない方々をたくさん目のあたりにしたことが、NinjaPaste開発の原点です。
今や介護食や療養食は、栄養価がきちんと計算されていて、しかもフレーバーの種類も豊富。なのに食感はというと、どろっとした液状、またはゼリー状のものがほとんどで、毎日楽しみながら食べるには難しいと思えるものが多いのが現状です。
NinjaPasteを利用すれば、たとえ介護を受けていたり、病気療養中であっても、もっと楽しく食べられる食品をつくることができるはず。そしてそれは、すべての人の健康的な食生活にもコミットするはず。私たちはその信念を持って、さまざまな可能性を模索しています。
グランフロント大阪で開催された2022年度「第10回ナレッジイノベーションアワード」では最優秀賞を獲得した
今後はより多くの食品メーカーにNinjaPasteのよさを伝え、導入していただくことで、誰もが気軽に買うことができるような価格帯の製品として流通させたい。そして食の楽しみをもっと広げたいと考えています。この可能性に満ちた素材をより多くの人に届けられるよう、これからも前進していきます。
OIHをこんなふうに活用しました！
2020年に、OIHアクセラレーションプログラム「OSAP」の第10期採択企業として参加しました。OSAPのいいところはプログラム終了後の卒業生向けのアルムナイサポートがとても充実しているところだと実感しています。メンター陣や専門家の中から、今の自分の事業ステージに合った人と話をしたり、相談に乗っていただいたり。プログラム終了後も私の大きな支えとなっています。
取材日：2023年9月26日
（取材・文 岩村 彩）
