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起業家ライブラリ

陶鑫(タオ・シン)氏

高度コミュニティ空間の創造で、未来を担うグローバル人材の育成へ

陶鑫(タオ・シン)氏

神戸大学
CEO、大学院生(2022年12月取材当時)
事業内容外国人留学生向けのシェアハウス型新卒採用プラットフォームの開発・提供

外国人留学生向けのシェアハウス型新卒採用プラットフォーム事業『ShareMate(シェアメイト)』

日本を世界に開かれた国とする『グローバル戦略』の一貫として、2008年、文科省は外国人留学生を2020年までに30万人増やす『留学生30万人計画』を発表した。当時約12万人だった留学生は2015年に20万人を突破し、2019年には過去最多の約31万人となった(※1)。

しかし、2020年より新型コロナウイルス感染症拡大の影響でその数は大きく減少したため、日本政府は2027年をめどにコロナ禍前の水準に回復させる方針を決定。外国人留学生の受け入れだけでなく、日本人留学生の送り出しを加えた『新たな留学生受け入れ・送り出し計画』を策定することを明示した。

こうした時代の動きを背景に、今、神戸大学で新たなビジネスが動き出そうとしている。それが、神戸大学大学院・経営学研究科の博士課程に在籍する 陶鑫(以下、タオ・シン)氏がCEOを務める『ShareMate(シェアメイト)』。外国人留学生の暮らしの拠点となるシェアハウスの運営をはじめ、生活や就職などの情報発信を行うプラットフォームの構築を通して、日本で自立していくためのさまざまなサポートサービスを展開していくというものだ。

この『外国人留学生向けのシェアハウス型新卒採用プラットフォーム事業』を世の中に周知させるために登壇した大阪イノベーションハブ主催のピッチイベント「ミライノピッチ2022」では、「OIH賞」「ガイアックス賞」を受賞。まさに、より良い未来を描くための新たなビジネスとして、大きな期待と注目を集めている。

出典:
(※1)独立行政法人 日本学生支援機構調「2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果

外国人留学生と日本の社会が抱える、さまざまな課題解決に挑む

自らも中国からの留学生としてオーストラリアで国際金融や貿易について学び、海外での生活を経験してきたタオ・シン氏。就職した外資系企業で、日本支社の開設を任されたのを機に来日。その後、より深く経営学を研究するために、神戸大学大学院経営学研究科・國部(こくぶ)研究室に入学し、現在3年目になる。そんなタオ・シン氏が神戸に住むようになって感じたのが、欧米とは異なる日本独特の“住みづらさ”だったという。

「外国人が日本に来てまず苦労するのが、住空間の確保です。言葉や文化の壁に阻まれ十分な情報もなく、契約書など複雑な手続きのせいで住む部屋を探すにも一苦労。ようやく部屋を確保できても交流の場が少なく、生活に必要な情報もなかなか手に入らないうえ、孤独に陥りがちです」

その一方で、日本では少子高齢化が進み、空き家問題が深刻化している。“それなら、空き家をリノベーションして、留学生向けの住居として活用すれば良いのではないか”というアイデアが閃いた。それも、単なる住空間の提供ではなく、人と人が交流するコミュニティとしての空間の提供だ。

タオ・シン氏が想い描いたイメージは、海外ドラマのような世界観。いわば欧米のシェアハウスだという。

「違う文化や価値観を持つ学生たちが同じところに住んで、勉強やイベントなどの活動も一緒にやりながら生活する。そこでは政治的に対立するような国の人たちでも、同じ学生としてワクワクした気持ちで互いにコミュニケーションを図り、助け合い学び合うことができるのです。それは本当の意味でダイバーシティでありインクルーシブな環境で、最も理想的だと思いました」

残念ながら日本にはそうした高度な交流の場としてのシェアハウスはまだまだ少なく、外国人留学生が環境に慣れない要因になってしまっていることを痛感していた。そこで、外国人留学生たちの宿舎であり、留学生と日本人学生、そして地域の人々が交流し、豊かなコミュニティを形成する新たなシェアハウスの企画・建築・運営ビジネスを打ち出したのだ。

さらに、タオ・シン氏がめざすのは、空き家を活用した空間提供に止まらない。住居の次に海外留学生にとって深刻な問題となっている就職に着目し、情報提供やサポートの必要性を確信。“困っている留学生の力になりたい”という1つの想いから始まったアイデアは、日本の社会やライフサイクル全体へと広がり、事業としての可能性も拡大させていった。

「少子化を背景に、今や世界で優秀なグローバル人材の確保が急務となっている反面、せっかく日本で学んだ留学生がなかなか就職できないというのが現実です。留学生のうち、日本での就職希望者が約65%なのに対し、実際に就職できたのはわずか約37%(※2)という結果もでています。将来的に日本で活躍したいという夢が叶うからこそ、さまざまな国から優秀な人材が集まってくるわけですから、留学生の抱える問題は、日本が解決すべき課題とも言えるでしょう」

出典:
(※2)令和3年度文部科学省「外国人留学生の就職促進について

さまざまな専門性を発揮する仲間とチームを結成。大学発信だからこその強みを活かして

課題解決を起点としたタオ・シン氏の想いやアイデアは、神戸大学に新たに設立した起業部でしっかりとしたビジネスプランへと練り上げられていった。起業部とは、文字通り起業をめざす学生のための部活動で、学部学科の壁を超えて自らの夢や目標を持った志の高い学生たちが集い学び合う場だ。2022年6月、ここでタオ・シン氏のアイデアやビジョンに共感する仲間によってチームが結成され、『ShareMate』が本格始動した。

チームメンバーとタオ・シン氏(右から2番目)。2022年12月開催のミライノピッチ2022にてOIH賞を受賞した

チームの構成は4人。空き家の建築設計・デザイン担当、WEBサイト構築担当、渉外とコミュニティ企画・運営担当、そして全体を取りまとめプロジェクトを推進するリーダーであるタオ・シン氏と、それぞれの専門性を発揮しながらひとつのものづくりへと向かっている。

「実際の空き家リノベーションには建築学科の学生と、WEBサイトの構築にはプログラミングサークルの学生とコラボレーションするなど、大学発信のビジネスならではの強みがあるのも『ShareMate』の大きな特徴になっています」

企業との交渉や資金調達については、タオ・シン氏が所属する研究室の國部教授からの心強いアドバイスやサポートもあり、プロジェクトは順調に進んでいる。

経営学研究科・國部教授(写真左)と

「ミライノピッチをはじめ、数々のビジコンへの参加も資金調達への足がかりの1つ。今回、ミライノピッチで高い評価をいただけたことは、認知度向上に向けて大きな成果だったと思いますし、確かな自信にもつながりました」と、タオ・シン氏は笑顔を見せる。

『ShareMate』から輝くグローバル人材へ!神戸から全国へ、そして世界へと想いは広がる

シェアハウス建築に向けて、まずはチームで神戸大学周辺の空き家を自分たちの足で周り、オーナーと地道に交渉を重ねてきた。ようやくビジネスに賛同するオーナーと出会い、2023年の春、いよいよ工事が着工する。同年秋に完成し、シェアハウス第一号がオープンする予定だ。

2023年春に着工予定の空き家。同年秋にシェアハウス第一号として、留学生が入居する予定だ

それと並行してWEBサイトとアプリの開発を進めると同時に、異文化交流活動も積極的に展開。地域の人々と一緒に餃子作りや火鍋を囲むなど、食文化やスポーツをテーマにしたもの、神戸国際協力交流センターといった組織とのビジネスをテーマにしたものなど、さまざまな切り口でイベントを開催している。

事業化実現をめざし、着実に前進し続けるタオ・シン氏には、思い描くビジョンがある。それは「『ShareMate』から輝くグローバル人材へ!」というスローガンに込められている。

「ただ、留学生をサポートするだけでなく、私たちが提供するプラットフォームでさまざまな情報を得て世界の文化を学ぶ場、いわば人材育成の場としての価値創造にも取り組んでいくつもりです。それが実現できれば、外国人留学生はもちろん日本の学生にとってもさまざまな文化や価値観に触れ、海外へ飛び出していくための学びの場にもなるはずです」

「そのためにも、まずは『One university、One ShareMate (ワンユニバーシティ、ワンシェアメイト)』を目標に、全国の大学や地域と連携を図りながら、さまざまな課題を解決していきたいですね」と意気込みを見せた。

現在、2023年春の法人化をめざし準備を進めている。本格化するグローバル化の波を受け、激動していく日本の社会。その未来を見据えながら、タオ・シン氏率いるチームは、一歩一歩着実に歩み始めている。

取材日:2022年12月27日
(取材・文:山下 満子)

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