ハイブリッドワークをサポートし、働き方の可能性を拡げる『WorkstyleOS』
少子高齢化に伴う労働人口の減少や社会のグローバル化、インターネットをはじめとする情報技術の進化を背景に、個性化・多様化していく人々のライフスタイル。働き方においても、「育児や介護と両立しながら働きたい」「自分の好きな時間、場所を選びたい」「複数の仕事を手掛けたい」など、それぞれの事情や価値観によって、さまざまな選択肢が求められている。
さらに2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけに世界は大きく激変。新たな生活様式が誕生するニューノーマル時代への突入で、働き方の多様化はますます加速している。
そうした時代の変化のなか、大きな期待と注目を集めているのが、長沼氏が代表を務めるACALL(アコール)株式会社だ。同社が2020年にリリースした『WorkstyleOS』は、さまざまなスポットとワーカーをつなぐことで、働く「時間」と「場所」を自由に選択でき、より充実したワークスタイルを実現するプラットフォーム。ハイブリッドワークをはじめ、新しい働き方を実現するためのサービスとして、現在、大手企業を中心に約6,000社が導入している。
「今や働く場所は、オフィスだけに限りません。自宅やコワーキングスペース、カフェ、ホテルなど、さまざまな場所が働くための“スポット”になります。それらを『WorkstyleOS』に登録し、そこに働く人である“ワーカー”がPCやタブレットを通じてチェックインすることで、いつ、誰が、どこで働いているのかをメンバー全員で共有することができる仕組みになっています」と長沼氏。
個々のチェックイン・チェックアウトと、その間の生産性をデジタルで見える化し共有していくことで、リモートワークの課題であった「ウェルビーイング」や「コラボレーション」の課題をクリアにしていくことができる。
長沼氏は、「『WorkstyleOS』は、あくまでも個々のワーカーが自分らしく、より充足した形で働くことができ、その結果として生産性がアップし、企業の業績向上や組織の発展につなげていくためのもの。働く人と企業、双方をハッピーにするためのOSなのです」と言う。
ACALL株式会社のビジョンは、Life in Work and Work in Life for Happiness “テクノロジー企業として、人々の「くらし」と「はたらく」を自由にデザインできる世界の実現をめざす”。新時代に向けて、働き方の可能性を拡げる新たな価値を提案している。
SFのようなワクワクする未来を、自分自身の手でつくるために起業の道へ
長沼氏が起業を志したのは、学生の頃。もともとSFが大好きで、なかでも『マトリックス』や『マイノリティ・リポート』のような仮想空間と現実空間を行き来する世界観に魅力を感じていたと話す。
「こういう未来がいつか現実化すると思っていて、すごくワクワクしたのを覚えていますね。そして、そんな未来をつくりあげていく仕事を、自分自身の手で手掛けていきたいと思うようになりました」
その夢を叶えるために、まずはIT業界に飛び込もうと大学卒業後に日本IBMに入社。起業を視野に入れながら最先端のテクノロジーを学び、2010年、ACALLの前身である株式会社BALANCE&UNIQUEを立ち上げた。
そしてもうひとつ、長沼氏を起業へと駆り立てる想いとして、「働く楽しさ」についての疑念があったという。
「多くの人は学校を卒業したら企業に就職する。そして、皆同じようなスーツを着て、同じ時間に電車に乗り、同じような職場に出勤します。それは日本における社会人の“普通の姿”ですが、一律的な働き方が正しい姿なのかな?と…。人が生きていくなかで、働く時間は多大なる部分を費やします。だからこそ、そこがハッピーでなければ人生もハッピーにはならないのではないかと、ずっと感じていたのです」
働く人をハッピーにできる仕組みを、テクノロジーの進化によって実現できるはず。それがSFのような世界観と組み合わせられたら絶対に面白い。――その想いが原点となって、起業の道へと突き動かしていった。
自らが実践し経験のなかで生みだされる新たな価値を、世の中に発信し続ける
長沼氏が、創業以来、一貫して大切にしていることがある。それがACALL株式会社のミッションにもなっている「Practice and Spread New Workstyle “自らがいち早く新しいワークスタイルを実践し、試行錯誤した経験を社会に発信する”」というスタンスだ。
起業直後は、法人向けのシステム開発を受託で請け負いながら、自社開発の試作プロダクトを次々と発信していた長沼氏。現在の『WorkstyleOS』に通ずる構想はすでに頭のなかにあったものの、いきなり壮大な変革を投げかけるような提案をしても、多くの企業はついていくことが難しく、実際につくるにも膨大な時間と労力がかかり現実的ではない。そこで、誰もが分かりやすく、かつ、取りかかりやすいことからスタートするためにも、まずは自分たちのワークスタイル改善のためのシステム開発に着手。そのひとつが、2016年にリリースした来客チェックイン体験をデジタル化する『ACALL』だ。
当時、エンジニア中心の小さな組織だった同社では、来客の度に対応が求められ作業が中断されるという課題を抱えており、その解決に向けてオフィス受付の無人化・会議室管理・セキュリティ連携を実現するアプリを開発。高額な設置費用や手間が必要だった当時の受付システムのなかでも、クラウドを活用し、iPadアプリと連動させる『ACALL』は導入のしやすさにおいても群を抜いており、たちまちのうちに話題となり同社の主力商品に。2017年には『ACALL』と同じ名前に社名変更し、事業の一本化を図った。
もちろん、それは通過点にすぎない。長沼氏がめざすのは、「働き方」そのものの改善にある。エントランスという限られた場へのチェックインから、働く場全体へと領域を広げ、働く時間を含めた暮らし全体へと視野を拡大。より高い次元での「場のデジタル化」によって働く場の選択肢を広げることで、働き方の多様化を実現し、みんなが幸せに働ける社会づくりを“ACALL VISION”として2019年に発信し、その後『WorkstyleOS』が誕生した。
「『ACALL』のサービス開始から導入社数・売上ともに大きく成長してきましたが、私たちのなかでは社会に提供できる価値はオフィス内に留まらないという強い想いがありました。日本には満員電車や遠方からの長時間の通勤、介護・育児のダブルケアの問題など、解決すべき課題が山ほどあり、その根底には「場に依存した働き方」が大きな要因となっていました」
さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が引き金となり、従来の働き方を抜本的に見直されはじめた現代社会。『WorkstyleOS』は、これまでの場所依存からの脱却をはかり、働き方の選択肢を大きく拡げることを可能にする、まさに新時代のワークスタイルを実現するための強力なサポートツールとして注目を集めている。
見つめる視線は世界へ、さらなる未来へ。突き進む想いは止まらない
リリース以来、順調な滑り出しを見せる『WorkstyleOS』。しかし長沼氏は、「事業としてはスタートを切ったばかり。これからもっと進化させていきたい」と話す。
「OSからユーザーは設定を自由にカスタマイズできるため、たとえば、会議にチェックインする際、会議の開始と終了を促す自動音声アナウンスを流すなど、さまざまなアレンジが可能です。また、当社から新しい使い方をご提案することもあります。新しい体験をプラスで入れていけば『WorkstyleOS』をどんどん進化させることができるので、ユーザーの皆様とコミュニケーションを図りながら、そこをしっかりとサポートしていきたいですね」
さらに、近い将来にはネットワーク上の仮想空間であるメタバースで働く人が増えていき、リアルとバーチャル空間を行き来する体験が一般化していくと予測する。現在はリモートワークが難しいとされているエッセンシャルワーカーにおいても、ロボットをはじめとする最先端技術を組み合わせて、より一層多様な働き方に応えていけるよう、サービスの新たな可能性にも挑戦していく意気込みだ。
2021年にはシンガポールを皮切りに、世界市場での事業展開も進めている。人々のライフスタイルや価値観が大きく変わろうとしている時代の要請に呼応するかのように、その勢いは止まらない。
「その昔、ワクワクしながら夢に描いていたSFの世界が、この10~20年でいよいよ現実になってくるでしょう。そのなかで、単に技術だけとか効率だけでなく、人にとって本当に豊かな生き方とはなにか、幸福とは何かを見据えながら事業をやっていきたいし、やっていくべきだと思っています」
本当に面白いもの、楽しいものを、自らの手でつくりあげて世の中に発信していきたい。
――学生の時に志した想いは、今も長沼氏を未来に向かわせる確かな原動力になっている。
取材日:2022年1月19日
(取材・文 山下 満子)