2015年に東証一部上場を果たした、さくらインターネット株式会社の代表取締役社長の田中邦裕氏。もともとロボットを作りたかったというエンジニア少年が、『サーバーを顧客にレンタルする』という現事業で創業したのは、舞鶴高専3年生の時(1996年)。「仕様を決めて、日々機能を更新して、みんなの情報発信を支えるのが楽しかった」と当時を振り返る。
「サーバーが好き」「使ってくれる人が喜んでくれるのがうれしい」という創業時の思いは、一部上場した今も変わっていない。夢を叶え、地位も財産も手にし、すべてが順風満帆なようだが、ここに至るまでには、さまざまな葛藤と苦悩があった。
高専を卒業した1998年に、大阪市内に事務所を構え、株式会社を設立。ITバブルの追い風もあり、売上げは順調に伸びたが、その分組織も大きくなり、家賃や人件費といった固定費の捻出が課題となった。サーバー管理が楽しくて起業したはずだったのに、資金繰りに奔走することも多くなった。さらに2000年にVCから投資を受けてからは、「上場」が組織の目標になっていく。利害関係者が増え、自由さが感じられなくなった。“自分が本当にしたいことはこれなのか?”と悩み、2000年12月、社長の座を退くことにした。
副社長として引き続き経営に携わる中で、会社は2005年に東証マザーズへ上場。しかし2年後の2007年には、拡大した事業の不振により債務超過に陥る。7年ぶりに社長に復帰し、陣頭指揮を執ることになった。
苦境の中で拠り所になったのは、「ユーザーが喜ぶサービスを低価格で提供する」という創業の原点だ。ITバブルの崩壊、スマートフォンやタブレットの登場による社会構造の変化といった波を捉え、顧客の困りごとを解決することにひたすら力を尽くした。組織マネジメントにおいては、思いを伝えることを大事にした。「不満はたいていコミュニケーションロスから生まれる。だから、『わかっているはず』で終わらせず、わかり合えるまで話す」。500名近くの社員を抱えるようになった今も、社員と言葉を交わし、現場が働きやすい環境になっているかに心を砕く。
最後に、成功に必要なことは何かを尋ねてみた。
「計画しても、その通りにいくとは限らない。大事なのは、日々の努力はもちろん、目の前に現れた運を絶対につかむという覚悟と、どうしても実現したいという熱意。成功するかどうかはやってみなければ分からないけれど、努力していない人、熱意のない人が成功することは絶対にない」
そう淡々と語る姿に、芯の強さが感じられる。
上場したからと奢ることなく、常に笑顔で丁寧に人と付き合うスタンス。この穏やかな人柄が成功の決め手のように感じた。
取材年:2017年