巨大なインド市場で農業問題をはじめとした様々な社会課題の解決に挑む
サグリ株式会社(創業時はSAgri株式会社)は、2018年に、人工衛星データや各種農業データを駆使し、農薬や肥料の最適な蒔き方や収穫時期などの情報を提供する事業を基盤に創業。その後、日本では、日本政府や大学、行政機関、農業支援機関と提携し、データ・ITを活用した農業支援を行っている。
2019年9月には、インドのベンガルールに現地法人SAgri Bengaluru Pvt.を設立し、これまでの農業支援データとノウハウを活用したマイクロファイナンス事業に取り組んでいるスタートアップ企業だ。
「当初は、農業支援、特に耕作放棄地支援を軸に事業を展開していたのですが、ここ最近は農業だけに限らず、より広い社会課題を私たちの技術とノウハウで解決するという風に、事業が広がりつつあります。
例えば、今日本に多くある空き家の検知、太陽光パネル設置に適した場所の検知などにもニーズがあることがわかってきています。
実は、私が働いているインドでもマイクロファイナンス事業を進めながら、新たな視点での事業も模索し始めています」
と同社事業の全体像と近況を語ってくれたのは、インドの最高責任者としてベンガルールで事業を推進している永田賢氏だ。
13億とも言われる人口、その多くが農業従事者という、世界的に見ても希な巨大市場を舞台に農業従事者と金融機関をつなぎ、両者にとってメリットを生み出す事業に取り組む中で、他にも多くの課題が見えてきたという。
「今の事業を通して明らかになってきたのは、マイクロファイナンス事業を浸透させる以前に、この国の企業経営や業務においてはまだまだアナログな面が多く、農業データを収集・活用する環境が充分整っていないということです。
私たちが取引するパートナー企業でもExcelの手打ちデータや紙ベースの情報などを使っていることが多く、農業データを集約してフィードバックする以前の問題が多発しています」
こうした新たな課題に対して永田氏が着目したのがDX(デジタルトランスフォーメーション)による、インドをはじめ周辺のアジア諸国の企業・事業者の業務革新だ。
日本で味わった数々の挫折。自らの未来を切り拓くため単身でインドへ
2020年10月現在、インドのベンガルールで事業活動を行う永田氏が2018年にサグリ株式会社、そして代表の坪井俊輔氏と運命の出会いを果たすまでには、実に多くの紆余曲折、数々の人生の岐路があったという。
永田氏が早稲田大学を卒業した2013年は、2011年の東日本大震災や政権交代による経済状況の悪化もあり、世の中は就職氷河期のまっただ中。学生にとっては、厳しい時代だった。
当時、永田氏はゼミで研究していた「グローバル人材」についての知識を活かすべく、外資系企業や海外で活躍できる企業を中心に就職活動を行った。
しかし、熱望していた企業はことごとく不採用という結果に・・・。
“一浪して大学に入った身としては、就職浪人はさすがに親に申し訳ない”と考えた上で、唯一合格した大手保険会社に就職。
大学でビジネスコンテストに挑戦し、英語にも自信があったが、入社時から希望していた海外赴任実現の可能性をまったく見いだせないことから、3年に満たず退社。最初の大きな挫折を味わった。
「海外で活躍するという夢も希望も失い落ち込んでいた中で、私が次に選択したのは、コンサルティング会社です。これは、父が経営していた接骨院とデイサービスセンターを数年後に継ぐために、経営を学ぼうと思って入社しました」
そんな中、急遽「新規事業を任せたい」との父の要請を受け、コンサルティング会社を1年で辞めた永田氏。
やっと自分の力を発揮できる機会に恵まれたと思ったのもつかの間。共に事業を進めようとしていた提携事業者に騙されそうになり、計画は頓挫する。
このことが原因で父とも大喧嘩をし、会社でやることも、居場所もなくなってしまう。
またも自分の思い通りにならない出来事に未来を見失いそうになった永田氏。
「27歳で3社目。しかも何の成果も残せていない自分の社会人評価は相当低いだろう。
このまま日本で転職活動をしても、すぐに会社を辞めそうなジョブホッパーとして見られ、採用されることも難しいのではないか?
ならば、思い切って場所を変えるしか方法がないのでは・・・」
と苦悩と模索の日々が続く。
そうして、日本に自分の居場所はないと考え、新天地として選んだのはインド。
自分の未来を切り拓くために永田氏は思い切って一歩を踏み出した。
インドで思いや夢を同じくし、共に歩んでいける同志に出会う
「私がインドを選んだ理由は、『アジアの中で成長性が非常に高い』『生産年齢人口が多い』『世界ランキングで東京大学を上回る大学がある』、そして『現地に日本人がいない』ということからです。
そうしてちょうど日本郵船グループの郵船ロジスティクスに現地採用という形で就職内定をいただき、インドへ渡りました」
永田氏が赴任したのは、インドのシリコンバレーと呼ばれるほど、IT企業やスタートアップ企業が集まるベンガルール。
不本意な事柄の連続だった日本での職歴と人生をリセットし、希望と期待を持って訪れたインド。
しかし初めての国、初めての物流業界というすべてが0からのチャレンジという環境で永田氏を待っていたのは、さらなる試練だった。
なんと最初に現地で出迎えてくれた日本人の先輩は2週間の引き継ぎ業務をして帰国してしまったのだ。
いきなりインドで自分1人だけになるという、あまりの衝撃的な出来事に混乱しながらも、ほぼ何もないところから仕事に取り組んだ永田氏。
過酷な状況に果敢に挑む中で、20〜30代の数少ない日本人仲間と交流し、現地での人脈を広げていった。
ついには、日本とインドのスタートアップ企業をつなげるNPO法人を自ら立ち上げ、そのおもしろさに引き込まれていったという。
そうしてインドに来て1年8ヶ月。仕事とNPO法人、人材交流など、多方面にわたる活動の中で、自分の居場所を見つけた永田氏。
そんな時、サグリ株式会社代表取締役の坪井氏と出会った。
「坪井氏と会った時に感じたのは、話がすごく通じる、考えに共感できるということです。
一度会って話しただけで『インドが気に入りました。永田さんと一緒にやりたいです』と言ってくれ、私もその場で『ぜひ』と即答したくらい(笑)。
ビジネス感や人間性も含めて、お互いが認め合える感じが持てた人物は坪井氏が人生で初めてでしたね」
左から永田氏、代表取締役の坪井氏、サグリのスタッフたちと
インドに来た時点で、どんな苦境にも負けない、ある意味“無敵状態”になっていたという永田氏。スタートアップ企業で働くことへの不安や恐怖心は一切なく、永田氏はすぐさま坪井氏に合流。
「自分の思いを叶えるチャンスがやっと巡ってきた!」
との実感を得て、マイクロファイナンスサービスの事業化や拠点づくりに心血を注いだ。
圧倒的スピード感の中で、自身で決断し事業化できる面白さを日々実感
サグリ入社後の仕事内容は、インドでの事業戦略立案や政府との交渉、パートナー企業開拓、ITエンジニアの採用や育成などの実務を一手に任され、2019年9月のインド現地法人設立後、戦略CEOとしてのポジションに就いた。
スタートアップ企業ならではのスピード感あふれる環境と仕事の大きさに、格段にやりがいも大きくなったという永田氏。
しかし、順風満帆な状況に水を差すかのように2020年に入って新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るいはじめる・・・。
「2020年4月にインドの各都市でもロックダウンが実施され、多くの企業が事業継続の危機にさらされています。
ですが、当社ではマイクロファイナンス事業以外にもDX推進事業への提案を行う中で、新たな案件をいくつか獲得できています。
これは、代表と私たちが変化する状況に対して即座に経営判断し、すぐに実行に移せるスタートアップ企業だからできるスピード感あふれる経営の賜です。
大変であることは確かですが、気持ちとしては前に向かって進んでいける実感があります」
2020年10月には、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)が主導する「日ASEANにおけるアジアDX促進事業」の農業部門において同社が採択され、人工衛星データを活用したタイ王国向け、農地情報のデジタル基盤構築事業に関わる実証実験への参加が確定。
コロナ禍の影響で外出禁止のなかだからこそ、資料作成に専念することができた。
そして何よりも
「坪井と2人3脚でとれたのが嬉しかった」
と永田氏は語り、メンバーと共に新たな動きに意欲を燃やしている。
社会変化が激しく、安定した経営が難しい環境であっても、事業も体制も、アプローチ法も柔軟に変えていき、スピーディに行動できる強みを持っている。
スタートアップ企業で働くことは、まさにこうした状況変化すらもチャンスに変え、自分達の力で困難を乗り越え、新しい道を切り拓いていくことができるのが魅力だと言えるだろう。
自分の選択を自らの力で正解に変えていける環境がスタートアップにはある
大学を卒業してから約7年近く、自分の思い通りの就職も、めざすキャリアも実現できず、不遇の時代を過ごした永田氏だが、サグリ株式会社に入社し、働く中で気付いたことがあるという。
「人生にはそれぞれのタイミングにおいて、色んな選択を迫られるが、今思うのは、その選択肢が間違っていても、自らの力で正解にすれば良い」
この考えができるようになったのは、ビジネス習慣や人種、社会環境も大きく違う中で、サグリ株式会社が自分達の事業を形にしてきたことによるものだ。
スタートアップ企業には、誰もまだやったことがないことに、誰よりも先駆的に挑む大変さ、事業スタート後も継続的に新しいことに取り組まねばならない過酷さがある。
「しかし様々なチャレンジの中で何ものにも代えがたいやりがいを得られ、人として大きな成長、より大きな視野でものごとを捉える力を身に付けることができます。
そして『インドでスタートアップと言えば、サグリと言われるくらい圧倒的な存在になる』という大きな目標や夢を持って働けるのは、最高です」
最後に永田氏が語った言葉に、スタートアップ企業で働く本当の魅力が集約されていることを実感できた。
スタートアップへのイメージ
<Before>
- ●非常に自由度が高く、楽しい雰囲気で働けそう
- ●独自のアイデアや技術で社会を変えられる可能性
- ●大きな仕事を任せてもらえ、達成感が得られる
<After>
- ●自由なだけでなく大きな責任もある仕事は面白い
- ●驚くほど、迅速かつ柔軟に顧客の課題解決が可能
- ●方針を打ち出したり、決断できる裁量権が大きい
自社のイイトコロ
代表をはじめ、私もスタッフも、何の忖度もなく自分の考えや意見を言い合え、一緒に事業を創っていけるのが当社の魅力です。自分のやりたいことを形にでき、自由度が高い環境で力を発揮できる当社は、本当に働きやすいです。
スタートアップで働こうと考えている人へ
スタートアップ企業で働く魅力は、組織の一部、部品ではなく、主導者、主催者として自分の理想とすることを実現できるところにあります。もちろん成功するまで打席に立ち続ける必要はありますが、そのチャンスは無限にあるのも良いことだと思いますね。それに自分を大きく成長させていけるのも最高です。