組織に「入る」のではなく、「作れる」ことが参画の後押しに
コロナ禍によって一気に広がったリモートワーク。最近では、オフィスへの出社と組み合わせたハイブリッド型のワークスタイルも増えている。リモートワークは自宅に限らず、移動中の電車や旅先などにまで広がり、かつてないほど働き方が多様になった今、スタッフ間でのコミュニケーションのあり方や、オフィススペースのマネジメントなど、新たな課題も生まれてきた。そこで期待が集まっているのが、ACALL 株式会社(以下、ACALL)が開発・提供するサービス『WorkstyleOS』だ。
「ハイブリッド型ワークスタイルでは、オフィスのデスクをフリーアドレスにし、出社する人が座席を予約して使用するという運用が行われることが多いです。『WorkstyleOS』は座席の予約機能を備え、その状況を社員が共有できるので、“あの人が出社するなら、自分も出社して打ち合わせをしよう”といったように、円滑なコミュニケーションが可能です。座席の利用状況などのデータは蓄積・分析されることで、働き方やオフィススペースの活用方法をブラッシュアップしていくことができます」
そう語るのは、同社でフェローを務める藤原弘行氏。代表取締役の長沼斉寿氏が最初に声をかけ、同社の前身である株式会社BALANCE&UNIQUEの立ち上げから参画したメンバーだ。
藤原氏は、大学時代に情報系の授業を履修したことがきっかけで、プログラミングの面白さに目覚める。文系学部出身ながら独学で勉強し、大学在学中からフリーランスのWEBデザイナー・エンジニアとして活動を始めた。
「実はチームで働くことが苦手でした。お客さまと直接やりとりして、自分で成果物を渡したい。その働き方ができるのがフリーランスだと思ったんです」と、当時を振り返る。
会社設立に向けてエンジニアを探していた長沼氏に出会ったのは、藤原氏がフリーランスとして活動を始めてから約10年後のことだ。
「長沼にはアイデアがあり、私にはプロダクトを作る経験がありましたから、一緒に何かできそうだと思いました。長沼の事業に対する情熱や行動力も、決め手です。チームで働くことは苦手でしたが、起業であれ<組織に入る>のではなく、<組織をつくる>ことができます。それなら、大丈夫だろうと考えました」
技術面を担当。自身の役割をしっかりと果たすことに注力
会社を設立した当初は、自社のオリジナルプロダクトを開発することに加えて、他社からの受託開発も行っていた。長沼氏はパワフルに営業活動を行い、ひっきりなしに仕事を受注してきたという。藤原氏は当時について「長沼についていくことに必死でしたが、毎日が楽しかった」と話す。
「その頃のオフィスは小さなマンションの一室。朝から晩まで2人で一緒にいました。大変だったけど、将来に対する期待がありましたし、何よりも1人じゃないという心強さがありました」
長沼氏と藤原氏は、「ビジョンを描く長沼氏、それを形にする藤原氏」という役割分担をしていた。しかし、組織が大きくなる中で、藤原氏は経営メンバーの一員として未知の領域を担当する場面も増えていった。
「その時期は確かに戸惑いがありました。そこで長沼と相談し、人数が増えつつあったエンジニアチームに軸足を置き、技術部門のマネジメントに注力するようにしました。会社の成長に伴って、資金調達をはじめとしてさまざまな分野の専門家がチームに加わってくれましたから、その中で私は、“技術分野での役割をしっかりと果たそう”という気持ちでやってきました」
意見をぶつけ合って新しいものを生み出すのがスタートアップ
スタートアップに加わる以前と現在とを比べて、藤原氏は自身に関するさまざまな変化や成長を感じている。その中でも最も大きな変化が、チームで働くことを面白いと感じるようになったことだ。
「フリーランスとして働いた経験から、“1人だと自分の枠から出ることはできない”と何となく感じていました。チームで働くと、いろんな意見や価値観がぶつかり合います。かつての私はそれが苦手だったのですが、いまは、“それこそが面白さだ”と思うようになりました。議論して、意見をぶつけるからこそブレークスルーでき、イノベーションが生まれるのです。これは1人では味わえません。スタートアップだからこその醍醐味です」
また藤原氏は、「長沼氏と働くことで、お客さま目線で考える姿勢を学んだ」と言う。長沼氏は、礼儀やあいさつなど、ビジネスマナーに非常に厳しい。大学を卒業してすぐにフリーランスで働き始めた藤原氏にとって、それらは苦手分野の1つだった。
「長沼は常に、お客さまの役に立つこと、お客さまの課題を解決することを考えています。作り手である自分たちの都合ではなく、お客さまにとっていいことかどうなのかという目線で物事を考えています。その1つの現れが、礼儀やあいさつです。とても勉強になりましたし、私自身のものづくりへの姿勢もかなり変わりました」
立ち上げ期からの経験を伝えていきたい
藤原氏はCTOを務めたあと、現在はフェローとしてより広い視野から技術面のサポートを行う役割を担っている。いま、藤原氏が力を入れたいと考えているのが、会社のこれまでの歩みを現在のメンバーに伝えていくことだ。
『WorkstyleOS』は元々、自社内の業務を効率化するために開発したプロダクトだった。ほんの数日で作り上げた簡単なものだったが、社内では好評だった。そこで「外販をしてみては?」という声が上がり、トライしてみたところ大反響となった。しかし、導入企業が増えればその分お客さまからの要求は多様化し、ハードルもどんどん高くなっていった。
オフィスに入ると、ACALLのビジョン『Life in Work and Work in Life for Happiness』と共に、『Practice and Spread』の文字が書かれている。
「あまりに厳しい要求に、エンジニアチームはそれ以上の開発をあきらめていました。でも、長沼はあきらめずにお客さまのもとに足を運び、営業を続け、エンジニアに対しても励まし続けてくれました。あのときあきらめなかったから、いまの私たちがあるんです」
『WorkstyleOS』がそうであるように、ACALLではアイデアをためらわずに形にしてみて、自分たちで試すことを大切にしている。それは、ミッションの一部にある『Practice and Spread』、すなわち『自分たちで実践し、試行錯誤した経験を社会に発信する』という考え方だ。この考え方が生まれた経緯を伝えていくことも、藤原氏は自らが果たすべき大切な役割だと考えている。
そしてもう1つ、藤原氏はACALLが拠点を置く神戸への今後の思いを語った。藤原氏と長沼氏はともに神戸の大学出身。会社設立以来、何度か拠点を動かしてきたが、2人が愛着を持つ神戸に落ち着いた。
「私たちがいまの場所にたどり着くまでに、神戸のみなさんからたくさんの応援をいただきました。その恩返しがしたいと思っています。本社オフィスを社外の方でも利用できるようにしているのは、具体的な取り組みの1つです。神戸から世界にチャレンジし、神戸のみなさんの思いに応えたいです」
広報PR & マーケティングの佐藤氏と
スタートアップへのイメージ
<Before>
- ・誰もが主体的に仕事をしている
- ・会社の方針決定にみんなが関わる
<After>
- ・想像以上に主体性が求められる
- ・議論や意見交換の白熱ぶりが予想以上
自社のイイトコロ
ワークスタイルに関するプロダクトをつくっている会社とあって、みんながワークスタイルに対する感度が高いです。例えば、試しに海外で仕事をしてみて、効果や課題を検証した社員もいます。出張で出向く先々でコワーキングスペースを利用し、働き心地を分析した社員もいます。そういった経験で得た情報を発信していきたいです。
スタートアップで働こうと考えている人へ
仕事は与えられるのではなく、自分でつくり出すものです。また、教えてもらうものではなく、自分で学ぶものです。そういった主体性が求められることは理解しておいてください。逆に、学ぶことや自分を成長させることが好きな人は、楽しみながら働くことができると思います。学生や社会人経験の浅い人、それからエンジニアの人は、ぜひ技術コミュニティや交流会に参加してみてください。技術のトレンドを知ることができますし、人とのつながりをつくることができます。インターンシップを考えている学生さんは、複数の企業を経験することがお勧めです。スタートアップはどこも個性豊かですから、いろいろな会社を見ることで、自分との相性を考えることができると思います。