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スタートアップで働く人

田巻 流 氏

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「企業は人が作る。」スタートアップが成長する過程において起業家は多くの仲間と出会い、共に長い道のりを歩みます。スタートアップで働く人は、どのような経緯で企業にジョインしたのでしょうか。

一人一人に焦点を当てるとそこには様々なご縁で繋がった、イキイキと輝きながら働く姿がありました。

「自分が使いたい」と思うサービスを
開発できる喜びがエネルギーに

田巻 流 氏 / 事業推進本部長

株式会社バカン(2016年設立)
在籍年数:6年
https://corp.vacan.com/
・リアルタイム空き情報配信プラットフォーム、デジタル整理券システムの開発
・サイネージへの広告配信
・混雑コンサルティングサービスロボット・ロボット用部品の研究開発、製造、輸出入・販売

トイレや飲食店の混み具合をリアルタイムに可視化して混雑を回避

「話題のカフェに来てみたら満席で入れなかった」
「空いているトイレが見つからず、探し回った」

誰もが外出先でこのような苦労を味わったことがあるのではないだろうか。時代や国を問わず、「混雑」という問題は人々を悩ませ続けてきた。混んでいるかどうかが事前に分かりさえすれば解消する悩みに、テクノロジーの力で挑んでいる企業がある。混雑状況を可視化するための多様なシステムを開発するスタートアップ、株式会社バカン(以下、バカン)だ。

『いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる』をミッションに掲げる同社の設立は2016年。商業施設やオフィスビルのトイレの混雑状況をリアルタイムで表示する『Throne(スローン)』というサービスを構築し、そこから対象を飲食店の座席や観光施設のチケット売り場、温泉宿の大浴場などに広げてきた。AIカメラやセンサーなどの機器で混雑状況を解析し、デジタルサイネージやWEBサイトに表示させるほか、店舗での予約受け入れやサイネージへの広告出稿などにも対応。導入先の環境に応じてハードウェアとソフトウェアのどちらも開発できる技術力が強みだ。

「飲食店を探すとき、普通は『何を食べたいか』『近くにどんな店があるか』『レビューは?』などから調べると思いますが、『混んでいるかどうか』という基準があってもいいと思うんです」と語るのは、バカンで事業推進本部長を務める田巻流氏。会社設立のわずか5か月後に入社して以来、バカンの成長を支えてきたメンバーの一人だ。

学生時代から積み上げてきたプログラミングの技術を生かし、バカンのサービス開発をリードしてきた田巻氏だが、その根底には「自分が使いたいものを作りたい」というモチベーションがある。

「私は混んでる場所が好きではなく、かといって計画的に予約をするのも苦手です。だから『混雑状況がわかるサービスを作る』という話を聞いて、迷わず参加しました」

大学でプログラミングに出会い、IT企業でスキルを叩き込まれる

大学では物理学を学んでいた田巻氏だが、3年生になる頃には「この道に進むのは難しい」と感じ始めていた。その頃、世間は携帯電話の主流がガラケーからスマートフォンに変わる過渡期で、アプリ開発が流行の兆しを見せていた。それに触発された田巻氏も、独学でプログラミングを学び始める。

「本やインターネットで情報を集め、アプリ開発に必要な知識を増やしていきました。それを大学で周りの人たちに話していたら、友人に誘われて実際にアプリをリリースしようという話になったんです。最終的には4~5個くらいのアプリをリリースしました」

その後、大学院に進むかどうか迷いながらも「念のため就職活動しよう」と、大手IT企業を1社だけ受けることに。そこでリリースしたアプリの実績をアピールしたところ採用され、晴れてプログラマーとしてのキャリアを歩み始めることとなった。

「その会社では主にWEBゲームの制作に携わりましたが、学生時代に勉強したプログラミングとの圧倒的なレベルの差を感じました。先輩たちの知識レベルは非常に高く、私が『すごい』と思うような技術でも『こんなの常識だぞ』と言われる場面が何度もありました。先輩たちには本当に迷惑をかけましたが、多くの技術を叩き込まれて『プログラマーとは?』というのが少しずつ分かってきたのはこの時期です」

会社がサンフランシスコで起業家を育成するプロジェクトをスタートし、田巻氏もそれに応募。現地で中高生と一緒にゲーム制作を行いながら起業家マインドを醸成する活動を3か月ほど続ける。10代の子どもたちが、自分の開発したゲームをプレゼンテーションする姿には感銘を受けたという。その後も現地の子会社で勤務を続け、日本とアメリカを行き来する生活を1年ほど過ごした後、バカンへの転職につながる誘いを受けることになる。

設立直後のバカンで味わったスタートアップの泥臭さと達成感

バカンの代表取締役 河野剛進氏は、田巻氏が在籍していた同IT企業で、トイレの空き状況がわかるアプリを社内ベンチャーとして提案していた。最終的にその案は通らなかったものの、サービスとして実現させるべく、河野氏は退職しバカンを設立した。河野氏と共にアプリを提案した、現・バカン取締役の篠原氏が、当時一緒に仕事をしていた田巻氏をプロジェクトに加わらないかと誘ったことが、バカン入社のきっかけだ。

代表取締役の河野氏と

「『混雑状況を可視化したい』というアイデアを聞いた時に、『これは将来的に自分が使うものになる』と感じたので、力になりたいと思いました」

田巻氏はIT企業に留まり、日中は会社の業務をこなしながら、夜中にバカンのサービス開発を無報酬で進めた。そんな生活を5か月ほど続けた後、いよいよ開発を加速させる必要があり、田巻氏は正式にバカンへ入社した。業界トップクラスの大手IT企業から、設立直後のスタートアップへの転職で、仕事の環境は大きく変わったという。

「一応、プログラマーとしてバカンに入社していますが、役割は会社のこと全部。『できない、やらない』という選択肢はなく、『どうやってやるか』しかありません。特に大変だったのはクライアントとの商談です。前職では営業らしいことは一切やってこなかったので、ビジネスマナーを覚えるところからのスタートでした。最初は名刺交換もまともにできなかったので、苦労の連続でした」

しかし、仕事のスピード感や達成感など、スタートアップならではのメリットも同時に感じていた。自分が考案したプランを何人もの上司に決裁を仰ぐことなく、ある程度自分の裁量で進められるため、「何かを始めるハードルはかなり低いと思います」と田巻氏は言う。

混雑情報のデータを活用し、社会課題の解決に貢献する

トイレの空き状況を扉のセンサーで感知するシンプルなサービスに始まり、その後、対象を飲食店、商業施設、役所、駐車場などへ広げてきたバカン。感知するハードウェアもAIカメラなどの高度なデバイスへ進化し、サービスの幅を着実に広げている。現在は、混雑に付随するものとして、予約の受け入れや電子整理券による行列管理、トイレ個室の長時間利用を防ぐサービスなども提供している。蓄積した混雑情報データの活用も視野に日々サービスを進化させている同社だが、田巻氏はその立役者といっても過言ではない。

創業から3年目を迎えた頃、それまでトイレや飲食店など、場所ごとにバラバラの形式で取得していたデータを、どんな場所からも同じデータ構造で対応できるようなIoTプラットフォームを作ろうという構想が立ち上がった。そのコンセプト設計を担ったのが田巻氏だ。『vCore(ブイコア)』と名付けられたこのプラットフォームは、施設の形状ごとに異なる複雑な混雑情報を、複数のウェアを組み合わせて多様なデータに展開できるのが大きな強みで、バカンの優位性を支える武器のひとつでもある。

「会社としてめざしているのは『あらゆる場所の混雑情報を一番知っている存在』で、さらにはそこを訪れる人がもっと快適に過ごせるような情報を提供していきたいと思っています。『少し時間をずらせば空いている』とか、『似たような施設で空いている所』とか、いろいろな情報を提供することで人流を分散化し、『混雑』という悩みを解消していきたいです。また、弊社はさまざまな施設にIoT機器を設置させていただいています。だから、混雑状況に限らず、場所に関する多種多様な情報を収集することができます。これらを活用して、施設の改善や街づくりのサポートも行っていきたいですね」

近年は、避難所の空き状況のリアルタイム配信や、通園バスへの園児の置き去り防止システムなど、社会課題の解決につながるサービスにも力を入れている。「これまでの事業展開でAIやIoT、センシング技術など幅広いノウハウを蓄積してきたので、困っている所に私たちの技術がマッチするなら、ぜひ力になりたいと思っています。また、『混雑』は世界中どこにでもある悩みなので、まだハードルは高いですが海外展開にも力を入れていきたいですね」

スタートアップへのイメージ

<Before>

  • ●楽しくて華やか
  • ●テレビで見るようなオシャレな起業家がいる

<After>

  • ●プロジェクトを始めるときのハードルが低い
  • ●組織のしがらみがない
  • ●どんなタスクも自分たちで泥臭く行う必要がある

自社のイイトコロ

フラットな組織なので、立場に関係なく意見を言い合える環境です。また、自分たちが提供したサービスが商業施設などで実際に役に立っている所を見られるのも、この仕事の魅力です。

スタートアップで働こうと考えている人へ

事業に共感して、一緒にサービスを作っていきたいという気持ちがある方には、とても魅力的な環境だと思います。初期のスタートアップは大変なことも多いですが、「一緒にビジネスを作っている」と実感できます。

スタートアップで働こうと考えてる人
スタートアップで働こうと考えてる人

2022年11月28日取材

(文:福井英明)

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