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イベントレポート

【2021年3月12、16日配信】中堅×スタートアップ オープンイノベーション事例から学ぶ「新規事業の進め方」

開催概要

コロナ禍で社会に新たな価値創出が求められる中で注目される”オープンイノベーション”をテーマにしたイベント『オープンイノベーション事例から学ぶ「新規事業の進め方」』が開催され、3月12日、16日にオンライン配信にて公開されました。

本イベントは、自社だけでなく他社や自治体など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、ノウハウなどを組み合わせ、革新的なビジネスモデル製品やサービスを創り出すオープンイノベーションに取り組む大阪・関西の中堅企業やスタートアップが登壇。具体的な事例と体験談を有識者とのトークセッションとあわせて紹介し、新規事業に向けた今後の活動のヒントを提供することを目的としています。

主催者を代表して開催のあいさつを行った大阪府商工労働部 中小企業支援室 室長の室井 俊一氏は、「コロナ禍によるパラダイムシフトは価値観や行動様式を変化するニューノーマルをもたらしているが、それは大阪の中堅・中小企業にとってはチャンスである」と話します。イノベーションの担い手であるスタートアップとタッグを組み、革新的なビジネスモデルを創出することは、いち早く変化の波に乗り、大きく成長できる可能性があります。

また、2025年開催の大阪・関西万博やうめきた2期エリアなど、イノベーションをデモンストレーションする場が作られており、大阪スタートアップ・エコシステムコンソーシアムや1月に策定された大阪の再生・成長に向けた新戦略を通じて、SDGsなどの社会課題解決にもつながるイノベーションの創出を後押しする体制が整えられていることが紹介されました。

続いて司会進行を担当する大阪イノベーションハブ 統括プロデューサーの長川 勝勇氏が、開催主旨の説明として、オープンイノベーションを支援する大阪スタートアップ・エコシステムコンソーシアムの活動を紹介。このあと発表される、すでに具体的な取り組みを進めている登壇者の事例を参考に、新たな連携のきっかけづくりをしてほしいと述べました。

目的にあわせて効果的なアプローチ方法を検討する

最初のプログラムでは、Rainmaking Innovation Japan (以下、Rainmaking)の吉田 匡 氏による講演「海外アクセラレータから見た効果的なオープンイノベーションとは」が行われました。同社はロンドンを拠点とするRainmaking Innovation Limited の日本法人として2019年に大阪市北区に設立され、アクセラレーションプログラムの提供や大学の産学連携などに携わっています。

大阪初のスマートシティに特化したアクセラレータープログラム「Startupbootcamp Scale Osaka」(以下、SBC大阪)は、第1期で455件、先日デモディが行われた第2期は550件の応募があり、採択された10社と実証実験を行い、大阪を中心としたパートナー企業と共に事業を展開しています。

吉田氏はオープンイノベーションを、「外部から何かを持ってくるのではなく、技術やアイデアなどの資源を意図的かつ積極的に内部と外部で流出入することでイノベーションを創出すること」と定義。相手を探す方法は、展示会、ビジネスマッチングの参加、SNSの利用など「自力で探す」、もしくはコンサルティング、JETROなど「他社に探してもらう」という2つがあり、自分たちでイベントやハッカソンを開催したり、コワーキングスペースを運営して場を作るといった方法もあるとしています。

具体的に何をするか決まっていれば決め打ち。ある程度やりたい分野が決まっていれば偶然を求めて展示会などに参加する、何か新しくやることを探す場合は既存のプログラムに参加したり、分野を特定しないアクセラレーターを主催するというように、目的にあわせて方法を使い分けることが効果につながりやすくなります。

海外とのオープンイノベーションは、目的、相手先、場所、アクションでどのようにアプローチするかで違いがあり、それぞれの注意点とあわせて説明されました。海外事例を支援するサービスとして米国のWeSpire社のアプリを紹介。キャンペーン、イベント、コンペなどの機能をSNS感覚で利用でき、国内大手建機メーカーが海外との協業を自力で行うために使用している例もあります。WeSpire社はSBC大阪の第2期の参加で日本市場への本格的な展開を進めおり、これから日本で活用しやすくなることが期待されています。

アクセラレータープログラムの運営で多くの気づきを得る

続いて「オープンイノベーションで挑戦する事業創造」と題し、大正期に創業されたグローバル総合商社の原田産業株式会社の事例が、Business Co-Creation Team(新規事業開発チーム)General Managerの鈴木 一平 氏より紹介されました。

大阪で1923年に創業された中堅老舗総合商社の原田産業は6つの事業領域があり、大阪、東京、アジア、欧州を主な活動拠点としています。BtoBネットワークに強く、ニッチ市場を見つけ、顧客課題を解決するモノを商社ならではの柔軟性で世界中から見つけてきた企業です。2020年に起業家と互いを挑戦者として切磋琢磨するアクセラレーションプログラムを立ち上げ、国内外から応募された167社から9社を採択し、約1年間行われた活動での気づきや今後にどう結びつけていくかが話されました。

プログラムを実施した背景としては、社内で新規ビジネスが生まれにくいという声が増え、また、新規ビジネスの方向性としてもモノだけを売る体制から脱却する必要がある、と議論された事がきっかけです。そしてその活動を自社だけで取り組むにはアイデアなどに限界があるだろうと考えた事から、外部と連携するオープンイノベーションへの取り組みを決めました。プログラムの目的は、既存領域でのスタートアップとの協業、新規領域では市場の情報収集と参入機会のリサーチ、そしてスタートアップとの協業感覚を掴むという3つを設定。募集領域は初めてということもあり全ての事業部門を対象にしました。採択企業が扱うビジネスやサービスは全て新しく、全ての領域にいずれかがあてはまることがマッピングで確認できました。

約5ヶ月間のプログラムが終了した時点で、引き続き具体的な協業内容が見えていたのが3件、もう少し調査を続けるかPOCまで見ようとしているのが2件、残り4件はコミュニティとして一緒に活動し、ビジネスをする機会があれば検討する関係を続けています。鈴木氏は「既存事業部門がオープンイノベーションに対する理解度が高く、既存部門から関与する人(スタートアップとの活動担当者)もいる場合、または新規事業として検討していた方向性と紐付く場合、もしくは協業のストーリーが何となくお互いに見えている相手とは継続した関係につながりやすいことが見えてきた。」と言います。

「新領域事業の場合は何でも広くするより絞り込む方がよいかも知れず、そのポイントを3つに整理し仮説としています。1つ目は将来の事業ポートフォリオを先に議論し、そこへ共感や協業を進めて頂けそうな案件。2つ目は社内で温めているアイデアと結びつけ、新規事業の可能性を一緒に探らせて頂く。3つ目は完全に割り切って出資で支援する。そうすることで採択の動機がわかりやすく、ギブアンドテイクで動きやすくなります。」

活動を通じて何が得られたかを、事業開発の機会、社内の変化、情報とネットワークの3つでまとめ、中でも事業開発の機会として、新規市場の情報やパートナー候補が得られたこと、新しい技術や概念の入門ができたこと、既存市場の新しい課題やニーズを聞く機会になったこと、そして、既存チームで新たにビジネスを検討する機会が生まれたことの4つを挙げています。

次期構想と将来像として、事業会社との連携、起業家コミュニティとの交流、起業志向の学生が参加する機会を設け、関係の形を広げたいとしており、最後にオープンイノベーションの理想と実際、マインドセット、人の成長で、それぞれどのような気づきがあったかも紹介されました。

ものづくりイノベーションを支援する開発拠点の立ち上げで成長を加速

成光精密株式会社からは「『Garage Minato(ガレージ ミナト)』エリア内連携で挑むものづくり支援」と題し、自社で運営するスタートアップ・インキュベーションプログラムの活動内容を中心に紹介されました。

成光精密は金属を精密加工する製造業で、手で持てる大きさの切削品はどんなものでも加工できること、できないと言わない対応力を強みにしています。単品プロトタイプの試作依頼が多く、受注の90%が1から5個の製品という特徴があり、様々な相談に対応してきたノウハウを活かしたオープンイノベーションに取り組んでいます。

インキュベーションプログラムのGarageMinatoは、ベンチャーや新規事業の課題であるアイデアやプランをカタチにするまでの道のりを支援すると同時に、町工場が抱える課題を解決するために立ち上げられました。「アイデアをすぐカタチに、アイデアと町工場をつなぐプラットフォーム」をコンセプトに、世界のものづくりの課題解決を目標に掲げています。

大阪市イノベーション拠点立地促進助成制度、グローバル・ベンチャー・エコシステム連携加速化事業、経済産業省StartupFactory構築事業の認定を受け、2018年4月20日に活動拠点をオープン。工場の2階にオープンイノベーションスペースが設けられ、アイデアから製作までの時間をスピードアップできます。

事業開発部マネージャーの野村 泰暉 氏は、学生時代から起業家として活動してきた経験を元にGarage Minato のプロジェクトマネージャーを務めています。「社会構造の変化に対応し、世界のものづくりイノベーション開発拠点へと発展させるには、横のつながりを強化し、もともとあるノウハウや技術力を活かす動きをベンチャーのように加速させる必要がある」と言います。

運営ではベンチャーを支援する株式会社リバネスと資本業務を提携し、ものづくり系スタートアップとパートナー企業である町工場らを連携し、アイデアをスピーディーにカタチにすることを支援しています。また、大阪市が認定する大阪テクノマスターとの連携では、プロジェクトマネージャーにも任命されし、セミナーの開催やプロジェクトを運営しています。そこから生まれた成果の一つである野球のバッティング練習用Tスタンド「SAKUGOE」は、履正社の高校野球初優勝に貢献したことで注目され、多くのプロ野球チームにも導入されています。

GarageMinatoの設立は成光精密の体制強化と連携推進につながり、ベンチャーも町工場も一貫して支援できる体制が整えられました。協力工場と新規取引先がそれぞれ50社以上増え、プロジェクトの相談件数も順調に伸びています。研究開発関連のプロジェクトでも契約企業が増え、ドローン、フードテックといった先進的な分野との出会いも広がっています。最後に野村氏から「課題解決策のための社会実証や実装を加速できる場として成長できるよう、今後も多くの人たちと一緒に汗をかきたい」と熱いメッセージが送られました。

企業と協業は早く手を動かしてカタチを見せることで信頼を得る

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)に在籍する学生たちが起業する株式会社ACTIOMは、ソフトウェアのアジャイル開発や新規事業開発の支援を得意としています。CEOの大内 勇磨 氏は「スタートアップ企業が企業連携に挑戦して得たもの」と題した発表の中で、学生起業が大企業のオープンイノベーションパートナーとして、どのように連携や協業してきたかを紹介しました。

天満インキュベーションラボを拠点に活動するACTIOMが最初に取り組んだのは、介護施設向けにリハビリ特化型のデイサービス業務管理システムでした。トレーニングのスケジューリングにかかる時間を大幅に短縮するのに加え、独自の歩行分析システムで運動機能の定量評価を可能にし、2019年のスタートアップ・イニシャルプログラムOSAKAに採択されています。

オープンイノベーションの事例では、株式会社イーストのAIチャットボット「botia」の開発例を紹介。経験と実績が無い学生起業が信頼を得るにはモノを見せる方が早いと考え、議論を重ねるより手を動かしてスピーディーに対応したことが評価されました。南海電気鉄道株式会社とはアジャイル型の新規事業開発先を探していたことから協業がスタートし、テニスコートの予約ができるテニスプレイステーションプラットフォームサービス「LAWN」の開発では、柔軟な対応をするため事業構築にまで深くコミットできたことが成果につながったといいます。

大内氏は学生スタートアップが企業との連携で得たものとして、確かな実績、業界を深く知ることができた、自社の規模ではできない仕事が手掛けられたことを挙げています。最後に「とにかく仕事が楽しかった」と言い、「言われたものをただ作るより、自分たちでアイデアを出して積極的に関わり、事業にする課程を体験できたのは大変良いことだった」と話しました。

共創を成功させるには内外を問わずコミュニケーションが重要

登壇した4名によるトークセッションでは、スタートアップに関心を持ったきっかけやオープンイノベーションに取り組むまでの経緯、活動に対する思い、課題にしていることなど、発表を深堀する質問を中心に進行されました。その中では社内のオープンイノベーションの取り組みに対する反響なども聞かれ、気をつけるべきことやデメリットについても意見が出されました。

原田産業では起業家に伴走する社員が熱意に触発され、事業の立ち上がる前に人の変化が先に見え、明らかに社内の空気が変わったと言います。鈴木氏は、そこで大事なのは、ゴールに向かって何を優先するかを確認し共有することだとし、例えば利益をどう出すかというところでは、スタートアップと社内の両方に利益が出ればいいが難しい場合もあり、社内と意見が対立する場合は説得しなければならず、全体で認識を共有するのは大事だと話します。

大内氏も同じくオープンイノベーションではコミュニケーションが大事とコメント。一緒に仕様を作った企業の担当者が万が一はずされても1からやり直しとはならないよう、担当者以外の社内の人たちとも出来るだけコミットして情報共有しておいたほうがいいとアドバイスしました。

野村氏は、スタートアップとの協業でいろいろ学んだ中でも、コロナ禍で停滞する社会経済に負けずいかに早く回していくかという考え方が特に勉強になったと言います。知らないジャンルにも足を踏み入れ、知らなかったことを知ることで社内の成長につなげようとしています。

大阪のビッグプロジェクトをにらんだ取り組みをしているか? という質問もあり、鈴木氏は、「最初は考えていなかったが、いろいろな人と一緒にアクセラレーションプログラムをするうちにエコシステムが貢献につながるかもしれないと思うようになった」と回答。野村氏は「イノベーションでは東京や海外の企業が注目されることが多い中で、大阪がもっと掘り下げられるようにしたい」と答え、例えば、万博は”いのちかがやく”がテーマであることから、関心が高まっている医療関連やそれに関連する社会課題を取り上げ、スタートアップも積極的に巻き込んでいこうとしていることが話されました。

オープンイノベーションで気をつけるべき点については、鈴木氏がアクセラレーションプログラムでは自社をよく見せたい心理になりやすいので注意が必要だと回答。採択後にソリューションがフィットせず、協業をやり直すことにならないよう、共創の設計とコミュニケーションは大事だと言えます。また、コミュニケーションは社内に向けても重要で、社員が既存ビジネスを疎かにするのではないかという不安を払拭し、活動に取り組めるようにするためにも不可欠だとしています。

登壇者からもいろいろ提案があり、スタートアップはニッチなのでビジネスの機会を創造するのが難しいので、テーマ細分化しマッチングは他のスタートアップにも喜ばれるのではないか、という意見が大内氏から出されました。吉田氏は、パネルディスカッションで意見を交わした相手同士でもなかなかつながりが持ちにくく、出会いから次へと発展させていく方法を考えていきたいとコメントしました。

最後の総括で吉田氏は、「オープンイノベーションは時代から求められているものだが、自社だけで実現するのは難しく、方法もそれぞれいろいろなやり方があり、やれることから試すのが大事で、その例を見せていただいたのが今回のイベントではないか」と述べ、さらに新しいやり方を開発したり、後押しする空気が関西全体に生まれ、いろいろな人たちを惹きつける魅力が出てくるのではないかと言います。司会の長川氏は、ベンチャー、企業、行政、アクセラレーターがそれぞれの役割を補完し、エコシステムという一つのまちづくりの中で機能していくことが大阪の魅力であり、それを発信していくのが重要ではないかと言い、トークセッションを締め括りました。

クロージングでは司会の長川氏が、オープンイノベーションを支援する様々な支援策として、大阪スタートアップ・エコシステム、大阪スマートシティ戦略、そして大阪イノベーションハブの活動や関連するイベントを案内しました。

閉会の挨拶では大阪商工会議所 産業部部長の玉川 弘子 氏が、「本イベントで発表された具体的な事例は自身も大変勉強になった」と感想を述べました。スタートアップは事業をスケールさせる連携にも熱心に取り組んでおり、その相手として地域に根ざす中堅・中小企業は重要なプレイヤーとなることから、約3万の会員がいる商工会議所でも中期事業計画にオープンイノベーションの促進を掲げ、特に力を入れています。

10年ほど続くMoTTo OSAKAオープンイノベーションフォーラムは、大企業から技術シーズやニーズを紹介し、中堅・中小企業らと連携することで具体的な研究成果と実績を上げています。「こうした様々な機会を、相互のビジネスを成長させ、地域に活力を生み出すオープンイノベーションにつなげてほしい」というコメントでイベントが締め括られました。

イベント概要

中堅×スタートアップ オープンイノベーション事例から学ぶ「新規事業の進め方」

配信日時 第1回 : 2021年3月12日(金) 14:30-16:25
     第2回 : 2021年3月16日(火) 18:30-22:20

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