イベント概要
世界進出をめざすスタートアップの熱いピッチバトル、「GET IN THE RING」。
今年度は、初めてイベントを完全オンライン化とし、YouTubeにてライブ配信が行われた。
GET IN THE RINGは、2012年にオランダで始まったスタートアップ支援を目的としたピッチイベントで、年間約150回以上のイベントが約100か国で開催されている。ピッチをボクシングに見立て、ボクシングリング上で事業アイデアを競い合うことで、登壇者は審査員からフィードバックを受け、ビジネスモデルの可能性を検証することができる。
参加するスタートアップは、企業評価額によって「ライト級」「ミドル級」「ヘビー級」の3階級に分けられ、予選に挑む。リングに上がることができるのは、各階級2社ずつ計6社のスタートアップだけだ。
ピッチの流れは、1分間の自己紹介の後、「チーム」「実績」「ビジネスモデルと市場」「財務状況と投資」「フリースタイル」の5つのラウンドが行われ、各ラウンド30秒で事業をアピールする。
各階級の優勝者は、世界大会である『Global Meetup 2021』への挑戦権を与えられ、各地域の優勝者と共に世界中の企業や投資家などのパートナーとつながり、人脈作りや事業を加速させるチャンスを得ることができる。
審査員は、ドイツスタートアップ協会の日本代表であり、スタートアップのメンターでもあるTransferNETの創設者 Tim Miksche氏、テック業界で20年以上の経験を持ち、ビジネスコンペの審査員も務めるJames Coleman氏、そして東南アジアで25社以上に投資、成長をサポートしたSpiral Venturesのプリンシパルである廣田 隆介氏が務めた。
ライト級バトル(企業評価額:50万ユーロまで)
青コーナー
MILK株式会社
がん細胞の特徴を明らかにする技術「ハイパースペクトルイメージング」の医療分野への提供とがん検出のためのWebアプリ「ANSWER」の開発
登壇者:中矢 大輝 氏(CEO)
LizunaのCEOであるJason氏は、eコマース事業者として詐欺の被害に遭った経験を簡潔にまとめ、詐欺で1ドルを失うごとに、eコマース事業者は商品の損失、時間の損失、その他のコストで3ドルを失っているという悲痛な統計データを紹介。
Lizunaはその対策として、ビッグデータ、データ検証、AIをシステムに採用し、不正行為を迅速に検知・分析するアプリを開発している。Jason氏は、Lizunaの急速な成長の可能性を示唆し、営業チームとシステムの精度を高めるデータエンジニアの雇用のために、資金調達を模索していると述べた。
対して、MILKの中矢氏は、同社のがん検知システムが医療分野に革命を起こす可能性を秘めていることを皮切りに、自信に満ちたピッチを披露した。
同社が提供するハイパースペクトルカメラは、微妙な色の違いを検出して対象物を正確に判別することができ、現在NASAでは植生の広がりを検出するために使用されている。MILKではカメラで撮影した画像を分析するAIソフトも開発しており、すでにがんの検出精度は90%以上を達成していると述べた。
中矢氏によると、2022年から全国の病院に導入することを目標としており、1000病院に採用されたとして7億ドル以上の売り上げを見込んでいるという。
白熱したライト級バトルは、審査員が「ポテンシャルの高さが魅力的」と評価したLizunaが勝利。MILKについては、医療規制の影響を懸念して、サブスクリプションベースのビジネスモデルには課題があると審査員全員が指摘したが、その潜在的な可能性には目を見張るものがあるという意見もみられた。
「君には世界を変えることができる、共に戦い続けよう」とJason氏からも中矢氏に熱いエールが贈られた。
ライト級勝者:Lizuna-Jason氏のコメント-
「とても驚きました、光栄です!
過去3年間頑張ってきましたが、外国人として日本で会社を立ち上げるのは簡単なことではありませんでした。関わった皆さんに感謝したいと思います。
現在、来年のシードファンドの調達に向けて準備を進めています。今年は多くのトラクションを得て、投資家と話し始める準備ができました。うまくいけば、シードラウンドをすぐに完了させ、その後は一生懸命事業を加速させ、より多くのトラクションを得て…世界を牽引できるようになるでしょう。」
ミドル級バトル(企業評価額:50万~2.5億ユーロ)
赤コーナー
EAGLYS株式会社
秘密計算技術を活用したプラットフォームの研究開発や金融・製造・医療・マーケティングといった領域で用いられる個人情報や機密情報のデータ解析・AI技術の研究開発
登壇者:Michal Kiezik 氏(Global Business Development)
青コーナー
OUI Inc.
従来の検査機器と同等の機能で眼の診断が可能なスマートフォン装着型医療機器「スマートアイカメラ(SEC)」の開発及び撮影した眼科画像を用いた、白内障などの自動診断AIの開発
登壇者:清水 映輔 氏(CEO, Co-founder)
ミドル級バトルでは、まずEAGLYSのMichal氏が、ビッグデータの市場規模が、今後数年以内に3500億ドルに達すると予測されていると述べ、EAGLYSはコンプライアンスと機密性の問題どちらにも対応しながら、データの有効利用を可能にする架け橋であると、位置づけた。常時暗号化されたデータ上で動作するAIモデルを提供することで、データは転送の最後まで復号化されず、情報を保護しながらデータの共有を可能にする。
データベース暗号化製品で市場に最初に参入した同社は、すでに大規模な上場企業と複数の契約を結んでおり、最近では収益100万ドルを突破したという。EAGLYSの次なる目標は、彼らのビジネスモデルを支える法制環境が整っているEU、米国市場に注力することだ。
対して、スマートフォンに装着できるアタッチメント、スマートアイカメラ(SEC)を使った迅速で簡単な診断により、2025年に失明を50%削減するという大胆な目標を掲げているのがOUI Inc.の清水氏である。
慶應義塾大学発の同社は、一般消費者向けにSECデバイスの販売と診断を行うサブスクリプションサービスを提供するビジネスモデルを提案。すでに日本政府の支援を受けており、日本の健康保険制度の下で診断システムをオンラインで展開しようとしている。
「失明を減らすことで、患者の視力が向上するだけでなく、日常生活に復帰し、社会参加をより充実させることができる」と清水氏は語った。
審査の結果、ミドル級はEAGLYSが優勝。Tim氏はデータの安全性が世界的に必要とされていることから、スケーラビリティの可能性を高く評価した。
また、審査員からはOUI社への賞賛の言葉もあり、今後のビジネスモデルや市場戦略をさらに練ってほしいとの声が上がった。
-Michal 氏のコメント-
「最高の気分です!私たちが参加するのは2回目で、以前は優勝できませんでした。しかし、弊社はこのコロナ禍の影響下でも成長し、昨年に比べて収益を倍増させることができました。米国は大きな市場であり、EUにはプライバシー保護のための有利な法制環境がある。私たちは今、海外への進出を検討しています。」
ヘビー級バトル(企業評価額:2.5憶ユーロ以上)
赤コーナー
OSARO
学習アルゴリズムと高度なロボット制御というコア技術をベースに、世界中の倉庫や工場で産業用ロボットが対象物を見て操作できるようになるソフトウェア、及びロボットを開発
登壇者:Ryan Tanaka氏(Sales Development Associate)
青コーナー
Hishab Ltd.
インターネットやスマートフォンなど、ITリテラシーがなくても、誰でも簡単に音声コマンドでデータの保存、共有等ができる自動音声認識技術の開発
登壇者:Zubair Ahmed氏(FOUNDER & CEO)
「現在35億人もの人々がデジタルリテラシーに乏しいとされている。それならば、人にデジタル化を強制するのではなく、技術を人に合わせるべきだ」 と、HishabのCEOであるZubair氏は、同社の電話サービスの説明を始めた。
同社のシステムは現在5億7000万ドル以上の売上を記録しており、27カ国で70の特許を保有していることに言及しながら、同社が生成した音声データは世界的大企業が保有するものより多いと主張した。東京電力は同社の顧客であり、バングラデシュの8つの大手小売銀行が同社の電話サービスを利用している。
彼らは現在、インドと日本の通信事業者との協議し、さまざまな国でライセンスや特許を取得するためにシステムインテグレーターとの提携を模索していると述べた。
対してOSAROのRyan氏が応戦。同社のディープラーニング・ソフトウェアはカメラに頼るのではなく、システムに搭載することで、人間の目のように振る舞い、ロボットアームがこれまで難しかった明確な反射性や変形性のあるアイテムを正確にピッキングすることができる。ディープラーニングにより、どんな商品の変化にも容易に適応でき、商品の事前登録が不要となり、時間の大幅な節約が可能となった。
流通と製造の現場における倉庫のオートメーション化の市場は、2024年までに2500億ドル近くに達すると予測されており、OSAROは拡大に向けて十分な態勢を整えていると主張した。同社は現在、大手システムインテグレーターと提携し、大手ロボットメーカー数社との強固な関係を維持している。
質疑応答では、厳しい質問が飛び交う。Tim氏はHishabに「挑発的な質問になるが、自分たちが主張しているように成功しているなら、なぜまだ有名になっていないのか」と訊ねた。
その質問に対しZubair氏は、まずバングラデシュ国内で展開してから拡大していく戦略だからだと説明し「新型コロナウイルス感染症の大流行でソフトウェアの使用率が上昇したため、収益が急増し、市場の拡大に注力できるようになった」とアピールを添えた。
この堅実なビジネスモデルによって、審査員はヘビー級勝者としてHishabを選び、情報格差を無くす取り組みに対する目的の明確さと使命感を称賛した。
ヘビー級勝者:Hishab-Zubair氏のコメント-
「非常に長い間、私たちはテクノロジーについていけない35億人のことを忘れていました。そして今、パンデミックが私たち全員をテクノロジーに適応させるよう促しています。しかし、35億人の人々は、まだ準備ができていません。テクノロジーと現実のギャップを埋めるためのソリューションが必要とされています。
そこで私たちは、そのギャップを埋めるため、どんな人でも、何も学ぶ必要なく、どんなソフトウェアソリューションでも使うことができるソリューションを提供します。これこそが、私たちのインスピレーションの源です。」
優勝者の今後
GET IN THE RING OSAKA 2020 – AI edition – で優勝した3名の物語はこれで終わりではない。彼らは、完全オンラインで開催される世界大会「Global Meetup 2021」に向けて新たなチャレンジが始まるのだ。
Global Meetup 2021ではGET IN THE RINGのグローバルパートナーとビジネスの発展や業務連携を視野に面談のチャンスが与えられる。彼らの今後の成長に期待している。
受賞者リスト
(原文: Phoebe Amoroso 翻訳:大阪イノベーションハブ)