世界で戦うチャンスを掴み取れ!若きスタートアップたちの激闘が幕を開ける。
4年目の開催となる、大阪本選の幕があがる。
2020年2月20日、グランフロント大阪北館・4Fのナレッジシアター。中央に設置されたボクシングさながらのリングは、ファイターたちの登場を今や遅しと待っているようだ。 そして18時30分。リングの背後に飾られた巨大スクリーンに過去のピッチバトルを戦ったスタートアップたちの雄姿が映し出され、これから展開される熱戦への期待が高まるとともに、リングマスター、ネイサン・ブライアン氏が颯爽と登場。『GET IN THE RING OSAKA 2020』の開幕を高らかに告げ、いよいよ本選がスタートした。 2012年、オランダで始まったスタートアップ企業のグローバル展開を目的とするピッチコンテスト『GET IN THE RING』は、今や世界100か国以上で開催されるビッグイベントに成長。OIH主催で行われる日本大会も2016年よりスタートし、ここ大阪を舞台に、毎回多くのスタートアップたちが熱い戦いを繰り広げている。 4年目となる本大会には、ライト級に 5社、ミドル級に 6社の計 11社が集結。午後に行われた予選でライト級 2社、ミドル級 4社のファイナリストが選出された。 本選を戦う彼らは赤コーナーと青コーナーに分かれ、英語による自らの言葉だけを武器に、1分間の自己紹介から始まり「Team」「Achievements」「Business model & market」「Financials & Proposition」「Freestyle」のテーマで各30秒ごと5ラウンドを戦い抜いていく。 勝者に与えられるのは、カナダ・モントリオールで開かれる世界大会への出場権。 3名の審査員の入場で緊迫するムードのなか、ブライアン氏の「Are you ready to GET IN THE RING?」のコールが響き、戦いの幕が切って落とされた。ライト級ファイナル「HoloAsh, Inc.」 VS 「Root Inc.」
まず最初に登壇したのは、ライト級予選を勝ち抜き決勝に進出した2社。ストレスや不安を和らげてくれるAIフレンドを開発した「HoloAsh, Inc.」が赤コーナーに、小規模農家向けのスマート農業システムを開発した「Root Inc.」が青コーナーに立った。 試合開始のゴングが響き、会場にはピリリとした緊張感が漲る。ファーストラウンドの先攻は赤コーナーのHoloAsh, Inc.。約4,400万人がメンタルヘルスに何らかの問題を抱えているとされているアメリカ社会を背景に、リーズナブルでいつでもどこでもストレスや不安を和らげるサポートを受けられるAIフレンドの有用性をアピールした。 対して青コーナーのRoot Inc.は、スマートフォンアプリを介し都市生活者でも遠隔操作によって農作業に従事することができ、同時に小規模農家は安定した収入を得ることができるメリットについて言及。ゲーム感覚で誰もが楽しく農業を楽しめるツールであることを訴えた。 その後、互いにラウンドを重ねていき、最終ラウンドのフリースタイルでは、Root Inc.はデジタルコンテンツによる新たなマーケットの創造で農業の発展に貢献したいという想いを、HoloAsh, Inc.は自身がメンタル面に不安を抱えた体験から、自らの個性と創造性について言及し、多様な個性を認める社会をつくりたいという想いと事業に賭ける情熱を、それぞれに熱く語った。 その後、審査員から「どのように市場を創り上げていくのか?」「収益構造は?」などの質問が飛び、両者ともに現状での取り組みや今後の展望について答えていくという、白熱した言葉の応酬がしばし続く。 すべてのラウンドを終えたリングの上。ライト級勝者としてブライアン氏が高々と手を挙げ、その名を読み上げたのは赤コーナーHoloAsh, Inc.。 審査員からは「どちらも現代社会の問題解決に取り組むものであり、興味深いテーマだった」と両者を讃えつつ、「説得力と、何があってもあきらめない熱意を感じられた」と勝因が語られ、まずはHoloAsh, Inc.が世界大会への出場を勝ち取った。ミドル級セミファイナル第一戦「Que Q Thailand」 VS 「Nihon Agri,Inc」
続いて、バトルはミドル級のセミファイナルに突入。予選を勝ち抜いた4社のうち、赤コーナーにデジタル支払いが可能な仮想チケットプラットフォームを立ち上げた「Que Q Thailand」が、青コーナーに日本の農産物の輸出や品種の保護により日本の農業のグローバル化を図る「Nihon Agri,Inc」が登場した。 ファーストラウンドでは、青コーナーNihon Agri,Incが先制。高品質でありながら縮小している国内市場に着目し、海外でも日本のフルーツと野菜を食べられるようにするためのビジネスモデルを紹介。 次いで、青コーナーQue Q Thailandが、飲食店や買い物に行く時、あるいは病気になって病院に行く時に長い待ち時間を要することに触れ、その問題を解消するためのアプリであることを紹介した。 その後もQue Q Thailandが100人の開発スタッフからなるチームで200万人以上のユーザーデータベースを作成し、毎月20%拡大していることや、100万ドルの収益があることなどをアピール。Nihon Agri,Incもまた、ブラジル、鹿児島、千葉での農業経験に基づく知見や、東南アジアへの果物輸出やライセンス生産を行い高いシェアを獲得している実績などで応戦。 フリースタイルでは、互いにビジネスに対するビジョンを語った。審査員からはNihon Agri,Incに対し、各国での規制問題や収益化の方法についての質問が飛ぶほか、地域によっての価格設定など質疑応答のなかでビジネスイメージが鮮明に。一方、Que Q Thailandも、異なる言語、異なる文化を持つ国々で、ビジネスを成功させるためのアプリのローカライズについて追求していったそれぞれにユニークなビジネスを展開している中で グローバルなテーマの戦いを制したのは、Nihon Agri,Inc。決勝へと駒を進めた。
ミドル級セミファイナル第二戦「HACARUS」 VS 「EAGLYS,Inc」
ミドル級セミファイナルの第二戦には、GET IN THE RING OSAKA 2018に「Trillium Secure, Inc.」として登壇したAdrian Sossna氏が「HACARUS」のCMOとして赤コーナーに登場。 そして青コーナーには「EAGLYS,Inc」が立った。どちらも「素晴らしい舞台に立てて、興奮している」と意気込みを見せる。 ファーストラウンドの先陣を切ったのは、初登場となる青コーナーのEAGLYS,Inc。未だ活用しきれていない企業に眠るデータ資産を、安全にデータ分析・AI構築・運用をサポートするための緻密計算プラットフォームの開発を紹介。 次に、HACARUSが日本国内で、1分間に2人が脳卒中を発症している深刻な問題を取り上げ、その診断と治療をサポートするAIシステムについてアピール。スパースモデリング技術によって人がより良く、速く、正確に意思決定できることを力強く語った。 続くラウンドの中でそれぞれのシステムの特徴や強み、投資の必要性を語り、両者一歩も譲らない白熱の攻防を繰り広げながら最終ラウンドに突入。 フリースタイルでは、青コーナーEAGLYS,IncがAIの素晴らしさに触れながらも、すべてのAIプロジェクトの96%はデータ品質の問題により初期段階で失敗していることを挙げ、その問題解決に向けて挑戦していることを熱くアピール。そして、赤コーナーHACARUSは、高齢化する日本のなかで専門医不足が大きな課題となっていることに触れ、そこに向けてAIツールで社会問題の解決に役立ちたいという想いを語った。 審査員との質疑応答ではビジネスモデルの収益化や、競合との差別化についての鋭い疑問が投げかけられる場面も。そうした質問に両者自信を持って答えていくことで、ビジネスの優位性を示していった。 「両者ともに大きなポテンシャルを感じた」と讃えられたHACARUSとEAGLYS,Incの戦い。審査員が「よりユニークなアプリケーション」と称した青コーナーEAGLYS,Incに軍配が上がった。ミドル級ファイナル「Nihon Agri,Inc」 VS 「EAGLYS,Inc」
世界大会への出場権を賭けて、いよいよ最終決戦が開始。2020年のラストを飾るのは、“日本の農業のグローバル化”と“AI×秘密計算による企業のデータ資産の活用”というまったく異なるジャンル同士の対決となった。 ラストバトルはフリースタイルのみ。わずか1分間という時間で、これまでのバトルで語りきれなかったことや強調したい想いなど、本当に伝えたいメッセージをぶつけていく。 先攻は、赤コーナーNihon Agri,Inc。「どうしてもグローバル市場で競争していく必要があり、本イベントを通してできるだけ多くのパートナーを獲得したい」と、ビジネスに賭ける情熱や目標をしっかりと訴えた。 後攻の青コーナーEAGLYS,Incもまた、グローバルに活躍したいという想いを訴求。「セキュリティコンピューティングをグローバルに展開し、安全なデータシェアリングが可能となる社会にすることができる」と語った。 終了のゴングが鳴り響き、最後の質疑応答へ。審査員から両者に対し投げかけられた「ビジネスの拡大を阻む懸念材料とは?」という問いかけに対し、Nihon Agri,Incは中国や米国などの競合企業、EAGLYS,Incは競合がいないうちに速くグローバル市場を攻め、顧客獲得しないといけないことを挙げ、情熱だけでなく客観的な視点と判断力があることも証明してみせた。そして「どうやって世界をより良く変えていけるか?」という問いにも、 それぞれの想いや計画を熱くを語った。
すべてのバトルが終わり、リングマスターが勝者の名を読み上げる瞬間がやってきた。 会場に大きく響いたその名は「Nihon Agri!」
最後に両者は堅く握手をして健闘をたたえ合い、会場は大きな拍手に包まれた。